そして、親子の住んでいた山奥の家は荒れ果てたまま廃墟として放置され、今もそこに建っているのだという。
車で足を踏み入れた3人の若者
当然、そんな噂に好奇心を刺激されて山に入っていく者もいたそうだが、その家、もとい“蝉の鳴かない場所”に足を踏み入れた瞬間に、みな言い知れない恐怖を感じて引き返してしまうのだそうだ。
だが、平成になったとある夏の時期に、その山に車で足を踏み入れた3人の若者がいた。
噂を聞きつけたNさんとTさん、そして二人に車の運転手として駆り出されたYさんの3人はその日、曲がりくねる山道で車を走らせていた。うねうねとした道を進み続け、ひと気のないその噂の山奥に着いたときには、辺りは薄暗く日が陰り始めていたという。
「たぶんこの辺りだと思うんだけど、あー、あれだわ、あの廃墟」
「マジであるじゃん!」
「どっかその辺停めて」
「じゃ、停めるよ」
バタン……………………。
エンジンを止めて車の扉を閉めたとき、Yさんは確かに噂通り蝉の鳴き声が全くしないことに気がついた。
足が止まるほどの悪寒が背筋を……
「表札とかも普通に残ってんじゃん」、「マジでこんなとこ人住んでたのかよ」そう盛り上がりながら家へと向かっていく二人の後ろを、気乗りせず追いかけていくYさん。
その瞬間、ゾクゾクゾクゾク……っと、これまで感じたことがないような悪寒が背筋を駆け抜け、思わず足を止めてしまったという。
「…………」
「……なに、どうしたん?」
「いや、あのさ、俺いいよ、ここで待ってるから」
「え、めっちゃビビってんじゃん! 根性なさすぎでしょ!」
散々いじられたそうだが、タバコを取り出す手も震えるくらいの悪寒に、見栄を張る余裕もない。結局、Yさんは車に残り、NさんとTさんがその家に向かうことになった。
Yさんは、車の中でいまだ収まらない悪寒を感じつつ、廃墟の周囲をグルグルと探索する二人を眺めていた。そのときふと、その家に落書きなどのいたずらの跡が一切ないことに気がついた。