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「密漁アワビは売ってるんですか?」「あれ、ヤクザだから気をつけなよ」…潜入労働で見えてきた“築地市場”の危ういリアル

『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』より #1

2021/08/07
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 山口組を日本一の暴力団組織に育て上げた田岡一雄組長は「正業を持て」と繰り返し組員にハッパをかけた。清掃業、廃棄物処理業、土建業、芸能興行などが当時の主流だ。

衰退する仲卸業者

 バブル期、2億円で取引された仲卸の鑑札は、700万円程度にまで暴落した。仲卸の総数も1200軒から600軒弱と、最盛期の半分に落ち込んでいる。仲卸の経営者たちも、自分たちが衰退する産業だとは自覚している。仲卸は半分以上が赤字経営の零細企業で、豊洲への移転で、さらに半分近くがそのうち廃業する見込みだという。

「引っ越しの費用だけでも数千万はかかる。赤字なのにそんな金は出せない。補助金と同様の貸し付けを実施したところで、焼け石に水だ。競争が激しくなる中で、貸し付けを返済できる見込みがあるとは思えない。不透明なことが多く、市場内の動線もメチャクチャなまま計画が進んでしまった」(4人の従業員を抱える仲卸業者社長)

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 暗礁に乗り上げた密漁アワビの取材はまったく違うルートから再開できた。築地で仕事をしている際、知り合いのヤクザとばったり会い、「密漁品を探しているが見つからない」と相談したところ、とある業者を紹介されたのだ。

堂々と売られる密漁アワビ

 その業者のもとで、密漁アワビは堂々と売られていた。

「もちろん仕入れ値は買い叩く。キロ8000円が相場のものなら、密漁品の場合5000円から3000円。キロ1万8000円のアワビは1万2000円。仕入れ先は漁師が多い。不意の現金収入が必要になって、自分たちがいずれ獲るはずの(禁漁期間に密漁した)アワビを売りに来る」

 その業者は、実際に「千葉県産」と偽装した静岡県産の偽装アワビを私に見せた。密漁と産地偽装をミックスさせることで、おおっぴらに密漁アワビを店頭販売するのだ。

 築地は密漁品の取り締まりを強化しているが、漁師と業者の共犯関係はなかなか断ち切れるものではないという。客からの需要はある。その要望に応える形で密漁品を仕入れる。