皆さんは心霊に何を求めているだろう?

 怖いもの見たさ、未知なるものへの好奇心、恐怖の共有による仲間との一体感、トラウマの克服……人によって求めるものは、それぞれ微妙に異なるだろう。しかし共通して言えるのは、心霊の非現実的要素にこそ惹かれるものがあるのではないかということ。

 少なくとも僕はそれを「希望」として捉えている。

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13軒の事故物件に住んできた

 心霊は、心霊より恐い「現実」という絶望を生き抜くための「現実逃避装置」として充分な機能を果たしているのではないだろうか。息苦しい世の中で繰り返される変わらない日常からの逃避行。説明できない怪現象は、現実から目を逸らすための心の安定剤でもあるのだ、たぶん。

 僕はこれまで13軒の事故物件を借り、日本各地の心霊スポットを数多く探索してきた。自ら進んで心霊と関わっていったのは、この世のものではない恐怖にどこかで癒しを求めていたからだろう。

「事故物件住みます芸人」の松原タニシ ©SUSIE

 しかし残念なことに、怪現象はそう簡単には起こらない。8年以上心霊に携わって毎日を過ごしていても、疑いようのない明確な怪現象に出くわしたのは数えるほどだ。

 皮肉にも心霊を追いかけ過ぎたばっかりに「さほど何も起こらないという現実」に直面し、ささやかな希望はズルズルと虚無感という名の絶望へと引き寄せられていった。

あの世とこの世の境界にある「天国ポスト」

 そんな僕に再び希望の光をもたらせてくれたのは、島根県にある黄泉比良坂(よもつひらさか)だった。

 古事記でイザナギが亡き妻イザナミと決別して、黄泉の出口を大岩でふさいだ場とされる黄泉比良坂。あの世とこの世の境界とされるこの場所が、島根県松江市東出雲町に存在する。僕はここで「天国ポスト」と出会った。

黄泉比良坂にある「天国ポスト」 ©松原タニシ

 このポストでは、いつでも誰でも死んだ人へ向けて手紙を書いて投函することができる。そしてその手紙は年に一度、東出雲ライオンズクラブと黄泉比良坂を管理する黄泉比良坂神蹟保存会がお焚き上げして天国へ届けてくれるのだ。

 僕が実際に訪れた2019年には、約1700通の死者への手紙が「天まで届け」と焚き上げられた。