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特集観る将棋、読む将棋

2021/08/18

AIと向き合う

 久保との王将戦七番勝負は2勝4敗で敗退したが、順位戦では2つクラスをあげ、B級1組まで昇級した。そして2014年に契機が訪れる。電王戦でAIと対戦することになったのだ。事前に貸し出された対戦相手のYSS将棋と1000局近くを指して準備し、人間側で唯一の白星を挙げた。

 AIとの対戦を機に思い切った決断をする。対人の研究会を一切やめたのだ。

 豊島は「研究会にマンネリ化を感じていた。その点、ソフトは悪手をはっきりと指摘してくれる。変わっていかないと、と思った」と後のインタビューで答えている。

 その後も「あと一歩」が続いた。同年、王座戦で羽生に挑戦するも2勝3敗で敗れる。2015年、棋聖戦で羽生に挑戦するも1勝3敗で敗れる。一方で佐藤天彦が名人を獲得し、糸谷が竜王、菅井竜也八段が王位と、若手が次々とタイトルを獲得して、豊島は遅れをとった。

 2018年は王将の挑戦者となったが、久保に2勝4敗で敗退、A級順位戦では5連勝から1勝4敗と失速してプレーオフで敗退した。どちらも3月のことだ。しかし、豊島はそれでもめげずに棋聖戦の挑戦者となる。 

 挑戦者になった感想を私に聞かれ、豊島は「順位戦も王将戦も結果が残せなくて。まだ実力が足りなかったと。もう一回やりなおして、半年かけて力をつけようと思っていました。それだけにこんなに早くチャンスが来るとは思わなかったです。調子は良くも悪くもないです。体調を整えてしっかり準備して、自分の力を出しきれるように頑張りたいと思います」と答えている。

そしてタイトル獲得へ

 2018年7月、羽生との五番勝負を3勝2敗で勝ち、5回目の挑戦でついに初タイトルを獲得した。

 さらに王位戦で菅井との七番勝負を4勝3敗で制し王位を獲得し、翌2019年は名人戦で佐藤天彦名人に4連勝して名人を獲得した。桐山が名人戦に登場してから39年後に弟子が名人を獲ったのだ。

 さらに竜王戦では広瀬章人八段との七番勝負を4勝1敗で制し、史上4人目の「竜王・名人」となった。その原動力となったのは角換わり腰掛け銀で、広瀬との竜王戦では3勝している。

 孤独を選び、オールラウンダーを捨て、戦法を絞り込み、ついに頂点に上り詰めたのだ。名人・王位・棋聖は失ったが、叡王を獲得し竜王は防衛して現在二冠だ。

現在は竜王・叡王を保持している豊島 写真提供:日本将棋連盟

 今回のダブルタイトル戦が始まるまでの対戦成績は、豊島が藤井に6勝1敗と大きく勝ち越していた。公式戦通算成績の勝率が8割4分超えの藤井に対して、これだけ勝っているのなぜなのか――。その理由をさぐるために2人の出会いからさかのぼろう。

 2人の接点は2014年の年末だった。藤井の師匠の杉本昌隆八段が、豊島に頼んで杉本の部屋で指すことになったのだ。当時藤井は小学6年でまだ奨励会初段だったが、豊島は藤井を高く評価した。

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