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「自分はまだまだダメなんだ」

 ご存じない世代の方のために補足すると、内村は、1999年、日本テレビの『ウリナリ』という大人気番組内の企画で、ウド鈴木氏、よゐこの濱口優氏、堀部圭亮氏、元テニスプレイヤーの神尾米氏、日本テレビアナウンサー・藤井貴彦氏らと、イギリスとフランスを隔てるドーバー海峡のリレー横断を達成し、チャネルスイマーに認定されている。 潮流が速く水温も低いが、ウェットスーツの着用は認められていないため、タレントが番組企画で挑むには過酷すぎるチャレンジあり、当時、低温の海水で体温を奪われ、明らかに限界を超えた形相で顔面を真っ白にしながらも泳ぐことをやめない内村たちの雄姿に、 視聴者は釘付けになった。

「たぶん直感で、“いじめられている自分”が見えているんだと思います。もはや『ひとりSM』している感じですよ(笑)。自分で自分を追い込んで、ひたすらそれに自分で応えているという」(工藤氏)

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 確かに内村の意識の中には、「自分はまだまだダメなんだ」「自分はもっと頑張らなきゃ いけないんだ」というMの人間性と、「次は自分にこんなチャレンジを課してやろう」「も っともっと自分ならできるだろう」というSの人間性が混在しているように思える。つまり、常に自らの成長を欲するドSの人格が、それに見合ったチャレンジをドMの人格に課すという、“成長の最高循環”を自らの中に内包している。

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 この内村のマインドサイクルは、ビジネスの現場において、とくにある一定のポジションにいる人間にとっては重要な意識であると考える。 

 なぜなら社会において、人は年齢や地位が上がってくるにつれて、徐々に「叱ってくれ る存在」「戒めてくれる存在」がいなくなってくる。

 誰もが新人の頃は、同じ部署にいる社員のほぼ全員があなたを「叱ってくれる存在」で あっただろう。しかし徐々にそのポジションが上がり、部下や後輩の割合が増えてくると、 あなたの周りにその役割を担ってくれる存在が少なくなってくる。

 ようは、若い頃は成長というものを周囲から半ば強制的に求められるのに対して、上司 となった人材は、自分自身でその尻を叩いていかなくてはならなくなる。

 女優・木村多江氏は、内村を「自分で自分を叱って、自分を律して、叱咤激励してい る」と評すとともに、その背後にある確固たる“自己の物差し”に感服したと語る。