8月8日に幕を閉じた東京オリンピック。誘致の際には「夏の暑さ対策」として「打ち水」や「三度笠」といった“ユニーク”なアイデアを披露した小池百合子だったが、コロナ禍の真っただ中での五輪開催論争においては、不思議なほど存在感が薄かった。
国を挙げての一大事に小池が息をひそめているのは、次の「政変」に備えてのことなのだろうか。彼女の思惑とは……。政治と女性の研究者、岩本美砂子氏の著書『百合子とたか子 女性政治リーダーの運命』より一部を抜粋し、紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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五輪中止への期待が膨らませる虚像
リモートで開催された5月19日のIOCの調整委員会で、コーツ調整委員長が、小池ら日本の大会関係者に向け、改めて開催への決意を表明した。『朝日新聞』の15・16日の世論調査では、五輪を「再び延期」「中止」するのがよいという回答が合計で83%に上り、前月から14ポイント増えた。
5月22・23日の『東京新聞』などの都民への世論調査では、政府のコロナ対策を「評価しない」が8割近くに上り、都のコロナ対策を「評価しない」の5割弱を大きく上回っていた。政権にとって、五輪推進が政権の推進力でなく、障害になりかかっていた。小池は、菅首相と同じほど矢面に立つことを、巧みに逃れていた。小池が、「正義の味方=小池vs.悪代官=IOCのバッハ会長」という構図の「小池劇場」をスタートさせるのではないかという期待は続いていた(*1)。「中止を言い出せる唯一の人」という期待が、小池に注がれ続け、実態よりも大きく見せる効果をもっていたのではないだろうか。
*1 萩原博子「東京の五輪開催を止めるのは誰?」『サンデー毎日』2021年5月30日号、45頁。「東京五輪「6・11中止宣言」の現実味」『サンデー毎日』同、112~113頁
五輪を中止にし、その責任を取ってから国政へと動くという見方も続いていた。しかし、菅が相手ならともかく、バッハを敵に回すには、小池の力量は、開催都市としての権限がマラソンの札幌移設で押し切られたように、不十分であった。しかも小池は「決断の人」である一方、築地市場か豊洲市場か決めかねて世論を読んで時期をロスしたように、「決められない知事」でもあった(*2)。また、希望の党の「排除」騒ぎで懲りているとも見られる。「負け戦」はしないのである。
*2 「期限迫る東京五輪開催の判断」『週刊ダイヤモンド』2021年5月29日号、96~97頁
巧妙に作られた小池の「手柄」
新型コロナのワクチン接種が、4月から自治体によって開始された(集団接種と個別接種)。しかし、接種の遅れがコロナ予防の隘路になっているとして、政府は4月末に東京と大阪に自衛隊による大規模接種会場の設置を決めた。これに次いで自治体による大規模接種会場設置がなされ、小池は5月21日、都独自の大規模接種会場を設置する方針を明らかにした。
1回目は築地市場跡、2回目は代々木公園の五輪パブリックビュー会場(パブリックビューは中止)などでの実施である。菅首相は21日、東京、大阪など9都道府県の緊急事態宣言の5月末までという期限をさらに延長することを表明した。5月末、北海道、東京、愛知、大阪、京都、兵庫、広島、岡山、福岡の9都道府県の緊急事態宣言は、追加された沖縄の宣言期間に合わせ、6月20日までさらに延長された(*3)。
*3 「東京五輪は中止しかない! 驚愕の「五輪中止解散」 自民がおびえる小池都知事の“ちゃぶ台返し”」『週刊朝日』2021年5月28日号、22~23頁
6月1日、都は保育所の待機児童が約1000人と、史上最少を記録したと発表した。2016年の小池の知事就任時には8500人に上っていたが、小池は都の力で減少したと述べた。しかし、保育士への家賃補助など直接効く政策もあるが、保育所を増やしたのは区である。認証保育所を増やし、また規制緩和で株式会社やNPOによる保育所も増えた。株式会社によるものは、人件費が少なく「ブラック」になっているところもある。2020年度はコロナ禍で、リモートワークや郊外への転居・産み控え・保育申し込みの減少があった。小池だけの「手柄」ではないし、果たして「手柄」だろうか。