合宿に行かず、娘は集合住宅から飛び降りた
その頃、近隣住民がジャージ姿の女子中学生を発見し、110番通報した。信太郎さんが家を出て探そうとしたとき、警察官と出会った。
信太郎さん「警察に連絡しようと思っていたんですが、うちの子が見つからないのです」
警察官「女の子ですか?」
詳細に質問された。信太郎さんは華子さんに何かがあったと思った。警察を自宅に案内した。華子さんは集合住宅から飛び降りており、愛知県警は自殺と判断した。遺書などのメモはなく、携帯電話も持っていなかった。そのため、心情を示したものはない。病院に運ばれたが、即死だったという。
信太郎さん「先生、寝ているんですよね?」
医師「すいません……」
信太郎さん「苦しんだのでしょうか」
医師「即死だと思います」
いじめを認めない学校と市教委
ちなみに、所属していたソフトテニス部は土日も平日もほぼ休みなし。土日は午前8時から午後4~5時まで。“ブラック規則”と思われるルールもあった。ルーズリーフに手書きで書かれた詳細なルールを手渡されていた。病気やけがで休んだとしても、グランド3周を走らなければならず、休むたびに3周ずつ増える。そのため休みにくい雰囲気があり、休むと行きたくなくなり、退部した生徒もいるという。挨拶が他の部活よりも厳しく、先輩が気づくまで挨拶するというルールがあった。
信太郎さんは、いじめを疑って、学校に生徒向けのアンケートを要望した。記名式で行われたものの、「部活はいじめがひどいと聞いている」「上下関係が厳しく、いじめがある」など、いじめを疑う内容があった。さらに、無記名アンケートも要望。いじめをしたと思われる生徒の実名が書かれていた。当初、学校や市教委はいじめを認めず、「自殺の要因は特定できない」との報告書を作成した。
信太郎さんは、アンケートにはいじめの記述があったため、「重大事態」として調査委の設置を要望した。すると、市教委の附属機関「名古屋市いじめ対策検討会議」で調査することになった。しかし、検討会議はいじめを認めず、部活での「肉体的、精神的疲労」を自殺の要因とした。
アンケート内容の詳細な調査がなされていないことなどを不服として、信太郎さんは市長あてに再調査を要望して、「名古屋市いじめ問題再調査委員会」が設置された。今回公表された報告書によると、部活の練習を手伝ってくれず、無視され、苦痛を感じていたと華子さんが述べていたこともあり、委員会はいじめがあったことを認定した。しかし、部活動を休みがちになったことはなく、「人間関係ストレスだけが、自死の原因になったとまでは言えない」と、いじめと自殺の直接的な関係は認めなかった。ただし、「本件いじめも含む様々なストレスが複合した結果、自死に至ったと考えた」との表現もあり、いじめも自殺の一因とはとらえらえた。