どうしようもなくのめり込んでしまう趣味を「沼」と呼ぶことが増えている。不倫・ママ活・スピ・推し・タワマン……『沼で溺れてみたけれど』(講談社)では、『浪費図鑑』の編著者でもあるひらりさ氏が様々な「沼」に溺れた女性たちに取材している。

『沼で溺れてみたけれど』から、切実な理由から「女性用風俗」という「沼」に溺れた女性のエピソードを紹介する。(前後編の前編/後編を読む)

舞い込んできたDM「実は女性用風俗を利用しています」

 人生の大半、恋人がいない。二〇一九年もそうだった。「劇団雌猫」名義で三冊書籍を刊行し、推し俳優チュ・ジフンができ、仕事も趣味も充実した一年だったけれど、「恋愛にももう少し時間を割いておくべきだったのでは……」という心の声はたまに襲ってくる。

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 普段は忙しさにかまけて忘れているが、誕生日、クリスマス、バレンタインデーといったイベント事が訪れたり、他人の慶事の話が飛び込んだりしてくると、心の奥底のどこかをざらりと撫でられるような感触がある。たわむれにマッチングアプリをインストールしては、渦巻くエネルギーに目眩(めまい)がして、すぐに閉じていた。

 日々は充実しているし、結婚・出産に対して切望があるわけではない。世界に無数にいる他者のなかから誰かを選んで、関係を築いていくことに、どんどん怖気付いている。いっそホストクラブとかレンタル彼氏とか、そういう“沼”で疑似恋愛をしてみると自分が求めているものが見えるのかも……? と、思ったりもした。

 振り子のように心が揺れ動いていた二〇一九年の冬、Twitterに一通のDMが舞い込んだ。何度か対面したことがあるフォロワーのミユキさん(39歳)からだった。

「連載、楽しく拝読しています。この間話せなかったんだけど、実は一年前から女風(女性用風俗店)を何度か利用していて、男性セラピストにお金を払っています。いろいろ他人に話したいけれど、そんなにおおっぴらには言えない課金のため、悶々としており……。よかったら話を聞いてくれない?」

 なんと、ホストもレンタル彼氏も飛び越えて、女性用風俗の話だった。

 聞いたことはあったけれど、まさか身近な知人に、利用者がいたとは。そんなに簡単にアクセスできるものなの? というか一体どのような価格帯なの? というか一体どんな人たちが働いているの? 疑問はつきず、すぐにミユキさんにお会いすることにした。