「蚊も人も俺にとっては変わりない」「私の裁判はね、司法の暴走ですよ。魔女裁判です」。そう語るのは、とある“連続殺人犯”である。

 “連続殺人犯”は、なぜ幾度も人を殺害したのか。数多の殺人事件を取材してきたノンフィクションライター・小野一光氏による『連続殺人犯』(文春文庫)から一部を抜粋し、“連続殺人犯”の足跡を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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CASE3 鈴木泰徳

福岡3女性連続強盗殺人事件

ヤミ金業者「逆ギレがすごいったい」

 鈴木による3件の殺人が大きく報じられるなか、私が記事を書いていた週刊誌の編集部に、1本の“タレコミ”電話が入った。

 福岡市の郊外にある喫茶店で、私がその電話の主・横山武史さん(仮名)と会ったところ、彼は持参したカバンから何枚かの紙を取り出した。それは鈴木の免許証と健康保険証、さらに実家の自動車整備工場の名前が入った名刺のカラーコピーだった。

 横山さんはさらにもう1枚の書類を私の前に差し出した。そこには「借入申込書」と書かれている。

 横山さんの仕事は非合法のヤミ金業者。かつて鈴木に何度かカネを貸していたと語る彼は、「ニュースを見たら、鈴木は何の罪もない女の人らに、ひどいことをしとるやろ。それが許せんけん、この書類ば出しちゃろうって思ったと」と口にした。

 手渡された「借入申込書」に鈴木は、自分の役職について「工場長」だと噓を書き、他社で借り入れている金額については「1件、20万円」と少なく申告していた。

「電柱の張り紙を見て電話してきたとやけど、確認すると実家がしっかりしとるけんね、それで貸すことにしたと。うちはトイチやけん、たとえば10万円貸すなら、15万円の借用書を書かせるったい。それで10日に1万5000円ずつ利子がつく。鈴木の場合、最初のときは10万円貸して、さすがに一発で返してきた。けど、次のときからは返済が遅れて、結局3カ月くらいかかったね」

©️iStock.com

 借金の目的については「パチンコ」だと話していたと、横山さんは明かす。

「噓も多かったね。よそで借りてないとか言いよったのに、調べてみると他に2軒で借りとったとかね。あと、最初はおとなしい印象やったけど、逆ギレがすごいったい。『払うんやから、よかろうもん』て声を上げたりとか、あと、警察に行くとか、その筋の者を知っとるとか、キレると尋常やなかった」

 横山さんは10万円ずつ、3回にわたって鈴木にカネを貸している。