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彼を迎えてくれたササポンは、饒舌でにこやかだった

「このまま順調にいけば交際スタートだろう。その前に彼をササポンに会わせておきたい」

 そう考えた私は、さりげなく彼に、赤の他人のおっさんと住んでいる状況を説明した。詳しく説明すると、彼は驚きながらも一定の理解を示してくれた。

 数日後、さっそく私はササポンと共に住む家に招いた。家に到着するなり、ササポンは「いらっしゃい」と小さな身体を折り曲げ挨拶してくれる。

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「こちらは、私が一緒に住まわせてもらっているササポンさんです」

 私も、奇妙なテンションで彼に紹介した。すると、彼は「こちらが噂のササポンさんですか!」とニコッと笑ってくれた。

 そのままササポンと私、意中の彼の3人で軽く食卓で飲む流れになった。

 

 ササポンは普段のクールさからは想像できないほど、その日は饒舌でにこやかだった。驚いたのは、私が真っ当な人間に見えるように、ササポンが機転を利かせてくれたことだ。

「彼女は書き手として常に努力しているから。将来は絶対に成功すると僕は思うな」

 普段のササポンは、私の仕事に一切興味がなさそうなのに。ナイスアシストもあり、彼のなかで私の株はさらに上がった。

 私は「ササポン、サンキュー…!」と心のなかで感謝する。

 数時間後、宴を終えた私は最寄り駅まで徒歩で彼を見送った。

「今日は、私とササポンが住む家まで来てくれてありがとうございました」

 照れながら礼を言うと、彼は笑顔で言う。

「会うまでどんなおじさんと住んでいるんだろうと思っていたけど。今日会って安心した」

 その言葉を聞いた瞬間、私は彼の所有物になれた気がして少し嬉しかった。

 安心したならば、どうか私達の関係を前に進める一言をくれと切実に願ったが、とうとうその日は告白されなかった。

「まぁ、良かったんじゃない」

 その後、数ヶ月を経て、その彼との関係は終わってしまった。理由は、彼が私と同時に別の女性にアプローチしていたことが発覚したからである。

 私はショックを受け、最初は怒り狂った。彼を罵りたかったし、「久しぶりの恋愛なのにふざけんな!」と思った。

 しかし、しばらくすると「怒っても泣いても現実は変わらない」という境地に辿りついた。まぁ、なんかそういうこともあるかと思い、さっさと次のステージにいこうと決めたのである。

 

 事の経緯をササポンに説明すると、「まぁ、全て勉強だからね。良かったんじゃない」と非常に淡々としていた。そのクールな対応に救われた。

 これまでの私ならば、失った恋を永遠に引きずったり、男性に対して無様に「いかないで」と縋ったりしていただろう。

 しかし、ササポンと過ごす自然体な日々のなかで、自分を犠牲にしてまで他者に依存する必要はないと痛感したのだ。