競走会は「たった1人の身勝手な、心無い元選手の行為により…」
競艇の競技運営を担う総本山である「一般財団法人日本モーターボート競走会」(競走会)は西川が逮捕された翌月の2020年2月19日、「不正行為に関する再発防止策」という趣旨の記者会見を開き、次のように説明した。
「しかしながら、このたびの、たった1人の身勝手な、心無い元選手の行為により、お客さまや関係者を裏切る事態を招いてしまったことは残念でなりません。名古屋地方検察庁の厳しい捜査においては、本件は元選手1名とその親族による不正行為であり、業界が関与する組織的な不正行為ではありませんでした」
事件に関与した選手はあくまで西川1人であるということを強調した内容だ。だが、一審判決が言い渡された直後の2020年11月、西川は犯行の全貌を告白した手記『競艇と暴力団』(宝島社)を上梓し、こう述べている。
<ただ、この本に書いていない重要なことがひとつだけある。「いまもボート界に八百長は存在する」という事実だ。>
<レースで不正をしている選手は、全体からすればごくわずかだ。ほとんどの選手はクリーンで、八百長とは無縁のはずだ。しかし、不正に関与していたのは俺だけではなかった。これは厳然たる事実だ。>
<検察や競走会は、今回の事件を「前代未聞の犯行」という。そんなことはない。表沙汰になったのは初めてかもしれないが、決定的な証拠がなかったというだけで、水面下では常に不正はあったし、いまもある。検察はともかく、競走会はそのことをよく知っているはずだ。>
この西川の主張に対し、競走会はいまのところ黙殺を決め込んでいる。
他にも八百長選手はいたのか?
確かに西川が逮捕された事件、競走会が言うところの「本件」は「業界が関与する組織的な不正行為」でなかったかもしれない。しかし「本件」以外に、不正を働いていた選手は全くいなかったのか。この点について、競走会は明確に説明していない。
西川は「他の選手を売ることはできない」とし、裁判や手記でも不正選手の実名を明かさなかった。しかし「(競走会が)証言の信用性をめぐって全面的に争うのであれば、俺は自分の知る他の選手の不正を語ることになるだろう」(『競艇と暴力団』)とも述べている。
結局、「他にも八百長選手はいた」とする西川の主張は真実か。それともまったくの虚偽だったということなのか――。これはぜひともはっきりさせておかなければならない問題である。
結論を先に言おう。
競走会は、ファンに説明、公表すべき重大な事実を隠している。西川が指摘した「隠蔽体質」は、何ら変わっていない。