自身が出走するレースでわざと着順を落とし、高額配当を演出。そのレースの舟券を親戚経由で購入する――。ボートレース界でそんな手法の「八百長事件」が起きていたことが、昨年1月各紙で報じられた。ボートレース界“史上最大の不祥事”とも言えるこの事件は、各所に大きな衝撃を与えた。
事件の中心人物として逮捕されたのは、全盛期には年間2500万円ほどの賞金を稼いでいた一流選手。だが、彼が捕まったことで、ボートレース界の“闇”がすべて晴れたわけではなかった。事件後の取材で分かった、競艇界の“八百長のリアル”とは――?(全3回の1回目/#2、#3を読む)
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有力若手・西川昌希選手(31)が八百長で実刑判決
<A(選手の実名)から連絡あって徳山か津で飛ぶか足らなかったら二回するんで50貸して貰えないですか?って 戸田の成績悪すぎで月末の支払いがやばいらしい>
<Aで仕事に成るんか?>
<どやろなー B(Aとは別の選手名)とたいして変わらん感じやとは思うけどな 徳山と津しかまだ斡旋が入ってないのが寒いな>
この生々しいやりとりは、名古屋地検特捜部に逮捕された元競艇選手と、同じく逮捕された共犯者の男性の間において交わされたLINEの記録である。徳山、津、戸田はすべてレース場を意味する。
2020年1月、競艇(現在の正式な呼称は「ボートレース」だが本稿では「競艇」と記す)史上最大の不祥事が明るみに出た。最高グレードのレースであるSGにも出場していた有力若手選手の西川昌希(31)による八百長事件である。
西川は2016年以降、出走レースにおいて故意に着順を落とす不正を繰り返していた。西川とは親戚関係にあった元弘道会組員の増川遵(54)が、西川を除外した舟券を購入するという手法で、約3年半の間に得た利益は5億円以上にのぼる。
2人は2020年1月、モーターボート競走法違反の疑いで逮捕され、増川は執行猶予付きの有罪判決(懲役3年、執行猶予5年)が確定。また西川は懲役3年の実刑判決が確定し、現在受刑者となっている。