司法取引に応じた共犯者・増川遵
ここに、数百枚に及ぶ資料がある。西川事件において、共犯者の増川遵が名古屋地検特捜部の取り調べに対して語った供述調書(検面調書)だ。
この事件で西川は、シナリオ通りの供述を強要する検事に反発し一切調書を取らせなかった。一方、増川はすべてを語ることで量刑の軽減を狙う、ある種の司法取引戦術を取った。本来であれば西川と増川が同罪であるべき事件だったが、増川は実刑判決を逃れ、西川は懲役3年という「大差」がついたのは、検察に対する協力姿勢の度合いが考慮されたと見て間違いないだろう。
増川の検面調書の内容は裁判における事実認定の土台となっており、一般に警察が取り調べた調書よりも、検事が取り調べた調書のほうが証拠価値が高いとされることを考えると、その内容には十分な真実相当性がある。さらに注目すべきは調書を補足するLINEのトーク履歴だ。これは今回の犯罪を裏付ける最大の証拠であり、やりとりは動かぬ事実である。
私物のスマホを堂々と持ち込んでいた西川
競艇選手は他の公営競技の選手同様、レースの開催中、宿舎に通信機器を持ち込むことを禁じられている。しかし、西川は私物のスマホを堂々と持ち込み(当時、検査体制は形骸化していた)、連日のようにLINEで増川とやりとりをしていた。2人は八百長を「仕事」と呼び、有利な1号艇のとき、3連単の舟券に絡まない4着以下に沈む八百長方式を「ブッ飛び」と命名していた。
競艇の番組表(レースのプログラム)は、基本的に前日の午後に発表される。西川は翌日の番組表が発表された後、選手の実力やコース取り、エンジン機力などを考慮しつつ「仕事」ができるかどうか、できるとしたらどのようなレース展開を演出するのがもっとも効率よく利益を得られるか、宿舎の内部からLINEで詳細に増川に指示、提案していた。
情報を受けた増川は、オッズが不自然に歪まないようにレース直前まで資金配分を計算し、ネットで舟券を購入していた。 そのLINEのやりとりのなかには、看過できない重大な内容が多数、含まれていた。
冒頭に紹介した内容はその一例だが、他にも西川が告白した「不正に手を染めていた選手がいる」という主張を裏付けるトーク履歴が頻出している。まずは、その事例を紹介していきたい。なお、LINEは原文ママ、選手の実名や特定に直接つながる情報は伏せ、絵文字等は省略することにする。