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後を絶たない “もち窒息事故”…それでも94%のデイサービス施設が口腔ケアを行わない“意外なワケ”

『道路を渡れない老人たち』より #2

note

悲劇を繰り返さないためには、口腔ケアの充実が必要

 身体の衰えは、脚、そして口からやってきます。

 口の健康を維持することができれば、全身の健康の維持にもつながるのです。これを防ぐためには、2つの種類の口腔ケアをしなければなりません。

 1つは、口の中の細菌や汚れを取り除くケア。もう1つは、嚥下機能をはじめとする、口の機能を維持・向上させるケアです。

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 口の中の細菌や汚れを取り除くことは、特に誤嚥によって口の中の細菌が気管から肺に侵入する誤嚥性肺炎のリスクを避けるうえでも重要です。

 この誤嚥性肺炎で年間4万人の高齢者が命を落としているといわれています。

 また、口の機能を維持・向上させることは、「食べる」という観点から、誤嚥や低栄養を防ぐ働きがあります。

 さらに、「話す」という観点では、コミュニケーションやモチベーションを保たせることで、うつや認知症のリスクを低減させるのです。

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口腔ケアの重要性はあまりにも認知されておらず…

 ところが、これほど重要な役割を果たしている口に関して、介護の現場での口腔ケアの実態は、はかばかしいものではありません。

 4万数千あるデイサービスのうち、口腔機能向上加算(噛めない、飲み込めないといった口腔機能が低下している人に、改善を目指したサービスを提供した場合に算定する加算。加算することで、介護保険から業者にその分のお金が支払われる)を得ているのは、わずかに6%台。

 つまり、デイサービス全体のうち、6%の施設しか、口腔ケアを実施していないのです。

 ましてや、本来ならば口腔のリハビリテーション専門職であるSTや歯科衛生士が機能改善管理指導計画を作成したうえで、サービスを提供し、定期的に記録・評価をするものですが、実際には専門外の看護師が行っているケースが多いのです。

 世間一般だけでなく、介護業界にさえ、口腔ケアの重要性はあまりにも認知されていません。

 それが広く認知され、デイサービスで正しい口腔ケアを受けるのが当たり前の世の中がこない限り、もちをのどに詰まらせる高齢者は今後もあとをたたないでしょう。