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「今の相掛かりはある意味発展形ですよね。飛車先の交換を保留し、タイミングを計るところが。ただ一方で、本局の豊島さんのように歩を守ることができるのに、わざと歩を取らせる作戦が出るところも面白いですよね。6四の歩を取られるのは痛いけど(塚田スペシャルは6四歩を取る戦法)、7四歩を取られるのはたいしたことがなく手得が大きいと」(塚田)

 さて、豊島は再度2枚の銀を前進させるが、そこでアベマの解説も控室もAIも予想していなかった藤井の継ぎ歩が絶妙の反撃だった。2筋を押し込んでから一転して攻めの銀を引いて相手の銀を追い返す。

 そして、代わりに金を前線に繰り出したのがうまいポジションチェンジ。この金は中央に横滑りし、さらに飛車を切って相手の金を消して中央にぐいと出た。そして金は前進を続けついに敵陣に。金を攻めに繰り出すのは藤井の得意ワザとはいえ、なんという駒運びだ。金の進出に私はなぜか既視感を覚えた。

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写真提供:日本将棋連盟

再びの端桂

 さて大詰め、金2枚を手にして藤井優勢となったが、1分将棋の中、豊島も玉の早逃げで粘る。攻めることができなかった2枚銀を守りの駒として使おうとしたのだ。藤井も時間を使い切って両者1分将棋に。

「こう粘られると焦るよね」と塚田がつぶやき、さあ角を飛び出そうか金をにじり寄ろうかなどと話したときに藤井が掴んだ駒は、桂だった。王位戦第5局に続いての▲9七桂の端桂が叡王戦の終幕を告げる1手だった。

 なぜこんな場面で桂を使おうと考えたのか? 天才の思考は凡人にはわからない。桂が銀を奪って天使の跳躍をし、最後は金捨ての王手が決め手となった。玉が逃げると簡単に必至がかかる。豊島は潔く金を取って詰まされる順を選んだ。

対局室のエアコンは、設定温度が23度だった ©勝又清和

 対局室は寒かった。設定温度はなんと23度だった。しかし、2人は寒いどころか暑そうにしている。大勝負に体中が燃えていたのだろう。関係者に聞くと、昼は20度にしていたそうだ。