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「アイドルじゃないのに本の宣伝で写真撮られるのもイヤだった」 ハライチ・岩井勇気が作り上げた「35歳・独身・一人暮らし男性」の日常

岩井勇気さんインタビュー#2

2021/10/03
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「あるある」を書いてリアルなエピソードに

――一人暮らしといえば、「10代の頃に思い描いていた想像の一人暮らし」(試し読みはこちら)のエピソードが細かすぎて実話かと思いました。ここまでリアルに想像されたのは、身近にどなたかモデルがいたからですか?

岩井 言語化していないけど、大多数の人の意識の底にある「あるある」を書いただけなんです。アニメが好きでそこから想像しただけなんですけど、めちゃくちゃ想像つきませんか?

岩井さんが「10代の頃に思い描いていた想像の一人暮らし」とは…

 僕、埼玉出身なんですけど、親が若くしてデキ婚したので、そんなに裕福じゃなかったんですよ。周りにもヤンキーが多くて、毎日パチンコに行く若いカップルが子どもを育てているという土地柄で、俺の将来もだいたいそんな感じだよなと思っていました。サッカー選手になりたいという夢もありましたけど、それはあくまで夢であって、結局俺の幸せなんてこんなもんだよな、という。

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 だから、「タワマン住んで、シャンパンパーティーして」みたいなのってリアリティーがなさすぎて妄想すらできなくて、逆に古い木造アパートとか雑居ビルのマンションの一室の方がイメージしやすかった、というのもあります。

「最初から小説だったっけ?」という錯覚を狙って

――今回は初の小説にも挑戦されています。けれど、エッセイの「10代の頃に思い描いていた想像の一人暮らし」も、「1人居酒屋デビューした前乗りの夜」も、これが小説だと言われると、物語のように読めてしまいます。その点は意識されたのですか?

岩井 そもそも小説を入れるというのは、出版社が勝手に「2作目は最後に小説をつけます」みたいに言ってきたことなんです。ただ言いなりになるのは面白くないので、だったら最後の小説につながるようにエッセイを書こうと思って。どこからどこまでが自分なのかを曖昧に、最後の小説もあえてエッセイの続きみたいなスタイルをとって、最後の小説を読み終わった後に、「あれ? 最初から小説だったっけ?」と錯覚されることを狙いました。

 

――はじめて「小説」を書かれて、いかがでしたか?

岩井 最後の小説以前がエッセイで、最後の章だけが小説って、違いわかります? 僕は、小説とエッセイの境目がよくわからなかったんですけど、自分が書いてもやっぱりわからないままです。今回、小説を書くにあたって、エッセイと小説の両方を書かれている又吉(直樹)さんに「エッセイと小説って、何が違うんですか?」と聞いたんですけど、又吉さんも「同じだよね」と言っていました。

 でも、構成を考える手間や書く労力は変わらないのに、「小説家」の方が丁重に扱われる出版社の風潮があるので、今回僕が小説を書いたことで、そこは変わるのではないかという期待はあります。

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