今年1月“プーチン宮殿”とされる映像がYouTubeに公開された。黒海沿岸の広大な敷地に劇場やカジノなど約1400億円(推定)とも言われる豪奢な建物が並ぶ。この映像は昨年、毒殺未遂に遭った反プーチン派の急先鋒アレクセイ・ナワリヌイ氏がロシア当局に拘束された直後に公開された。再生回数は10日で1億回を超え、ロシア全土で抗議デモが巻き起こった。驚いたのは公開された映像のクオリティーだ。実写と見紛うほどの超精細CGで宮殿内部が再現されていた。建設に関わった業者から設計図や内装情報を得て作られたという。用意周到にこれほどの映像を作るには相当な資金力が必要だ。では一体、誰が活動資金を援助したのか――。

 Amazonプライムで配信中のドキュメンタリー作品『市民K』を見ると、昨今のロシアやプーチン大統領を巡る出来事の構図が見えてくる。本作の主人公はソ連崩壊後に国有企業を民営化して財を成したオリガルヒ(新興財閥)の一人、ミハイル・ホドルコフスキー。石油会社を買収し、巨万の富を築いた。彼をはじめとする新生ロシアの成金は、メディアと政治を意のままに操り始める。彼らは威信が失墜したエリツィンの後釜に、無名の元KGB、ウラジーミル・プーチンを推した。だが、それは大きな誤算だった。権力の座に就いたプーチンはメディアを支配し、オリガルヒの撲滅を宣言。ホドルコフスキーは脱税の疑いで逮捕され、禁錮10年の刑で服役。まさに飼い犬に手を噛まれた形だ。

©佐々木健一

 ホドルコフスキーはその後、ソチ冬季五輪前にプーチンの恩赦で釈放され、現在はロンドンで亡命生活を送っている。そして、没収される前に海外へ移した莫大な資産をもとに、ナワリヌイ氏ら反プーチン派の活動を支援しているのだ。

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 プーチンに権力を与えた男が今、反プーチン派の活動を裏から支えている。実に奇妙な意趣返しの物語だ。