たった7分間に4コマが30本分
長期連載という点で『サザエさん』は、これまでアニメ化されたどの原作より長い。だからすぐには量的な払底を不安視する声は上がらなかった。
長い歴史の間にはその時々の世相を反映して書かれていたのだから、現在(というのは昭和44年のことだが)を舞台にしては使えない4コマがある。七輪バタバタなんて戦後日本のつつましさをネタにするのが、もはや無理な高度経済成長期であったのだ。
作者長谷川町子自身も連載当初は九州在住だったため、テレビで設定した世田谷の雰囲気から遠いものがある。提供東芝の都合でこぼれ落ちるコマがあるのは、扇風機の話で察しがつくだろう。
そんな事情で、アニメに使用出来る4コマを選ぶのが、最初の作業となった。
数はハッキリ覚えていないが、2000とか3000とか、その程度の本数だったように思う。
ごく初期の記憶だが、アニメ1本(7分間)の長さで原作の4コマがどれだけ消化されるか試してみた。まだどの4コマもアニメ処女であったから、1話に好きなだけ使ってみることにした。繋ぎの部分を最小限に削ぎ落として、原作から原作へ有機的? に渡り歩いてシナリオ化した。
その結果びっくりしたのは、アニメ1話の、たった7分間に4コマが30本入ってしまったことだ。そうなると作者長谷川町子営々3カ月の苦心の積み重ねが、毎週日曜夕方の30分間で消え失せる!
テレビアニメの巨大な胃袋をSFアニメで思い知っていたつもりのぼくなのに、『サザエさん』のような家庭生活マンガでも、恐るべき健啖ぶりを発揮して想像を絶した。
『サザエさん』の原稿枚数は通常の2倍以上
なお『サザエ』の脚本に従事して知ったのは、他の番組との原稿枚数の多寡である。東映動画でぼくが多く組んだ芹川有吾監督(『サイボーグ009』『魔法使いサリー』他)からは、
「シナリオは55枚くらいで纏めてよ」
しばしば注文されていた。原稿用紙1枚が200字詰めで、われわれはペラと称した。小説は400字詰めが普通だが、シナリオはその半分の大きさだ。紙束の上部を指で抑えてペラペラめくれば、全体の構成をチェックしやすいからなのか、そう呼んでいた。
ちなみに『009』は30分番組で、『サザエさん』は7分間が1話だけれど、なんとペラで40枚入ってしまう。芹川監督が要望する枚数の2倍以上を消費した。
だからといって『サザエ』の声優が早口でまくし立てるかといえば、そんなことはない。設定も人物も視聴者ご承知のアニメだから、今さら話の背景をごたごた解説する必要だってないはずだ。そんな大量の内容が、7分間のどこに埋没するのか謎であった。
『サザエさん』を降りて久しいから現状は不明だが、放映開始の頃はそうだった。このペースで推移すれば、早晩原作は品切れ必至となる。