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白か黒か結論が出ないと新しいものも書けない

――そして社会人になってから、メフィスト賞に応募したわけですね。

辻村 いろいろ調べた結果、この枚数を受け入れてくれるのはメフィスト賞と角川の日本ホラー小説大賞しかないと分かったんです。周りの人たちに「この話はホラーではない」と言われて、それで迷いました。メフィスト賞は相対評価ではなく、絶対評価の賞なので、応募するのが怖かったんです。相対評価の賞なら、落ちても巡り合わせが悪かったとまだ思えるんですけれど、絶対評価からはじかれてしまったら、しばらく立ち直れないだろうと思いました。

 だけど、『冷たい校舎の時は止まる』を書きあげてから、新しい小説を書こうと思っても、『冷たい~』のスピンオフになってしまうんです。その時に書いたものが『ロードムービー』(2008年刊/のち講談社文庫)や『光待つ場所へ』(2010年刊/のち講談社文庫)に入っています。スピンオフから抜け出せなくなっていたので、これは一回メフィスト賞に応募して白か黒か結論を出してもらった上でないと、新しいものも書けないと思いました。それで、徹底的に直そうと思って、それまでは削ることばかり考えていたけれど、主人公たちのエピソードを膨らませて、結果的に枚数を増やして送りました。送った後は怖くて怖くて仕方がなかったです。

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ロードムービー (講談社青い鳥文庫)

辻村 深月(著)

講談社
2013年8月9日 発売

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光待つ場所へ (講談社文庫)

辻村 深月(著)

講談社
2013年9月13日 発売

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――そして2004年、見事、受賞の連絡を受けて。でもしばらく兼業でしたよね。

 

辻村 受賞の連絡を受けた時が23歳、本が出たのが24歳の時でした。気持ちの上ではすぐ専業になる勢いだったんですが、編集者や綾辻さんに「一回就職したのはいい選択だったと思います」と言われて、アドバイス通りしばらくは兼業で頑張ろうと思いました。結局5年くらい兼業でした。

――ここで綾辻さんのお名前が。実は受賞の連絡も綾辻さんから受けたそうですね。私はもう何度も聞いていますし辻村さん愛読者の間では有名な話ですが、やはりここで綾辻さんとの交流に触れておかねばなりませんね。

辻村 はい。私が綾辻さんを好き過ぎて中学時代からファンレターを出していて、綾辻さんがお返事をくださったりしていたんです。それで大学に入ったときに忙しくてしばらく手紙を書かずにいたら綾辻さんからお手紙をいただいて「『これから受験なので、しばらく感想のお手紙を書けなくなります』と書いてあったけれど、その後どうでしたか」って。「大学生活が楽しくてミステリーどころじゃないならいいのですが、もし受験に落ちたとしても長い人生いろいろありますよ」って書いてくださって。それで「大学に入ってミス研に入りました」と書いて送ったら「じゃあ、もしインタビューの依頼とかがあったどうぞ」と言って、お仕事場のご住所を教えてくださったんです。

――何度聞いてもいい話。大学合格祝いに、何か送ってくださったんですよね。

辻村 当時発売したばかりの、綾辻さんが監修したゲームのソフトを送ってくださいました。それからメールのやりとりもさせていただくようになったんですが、自分が小説を書いているなんておこがましくて言えなかったんです。けれど、ある時、綾辻さんが打ち合わせの席で編集者に「今度のメフィスト賞はこの人にしようと思います」と言われたそうなんですね。それで、話を聞いているうちに「その子、たぶん、僕の知っている子なんだけど」ということになり、綾辻さんが連絡をくださって。「千葉大のミス研出身で、今山梨に住んでいるということでたぶん間違いないと思うんだけれど」というメールを読んだ時は号泣しました。

――綾辻さんがそこまで気にかけてくださるようになったのは、辻村さんがものすごい量のファンレターを送ったからですよね?

辻村 そうなんです。ある時、綾辻さんと編集者の方がいる場所でその話になって、編集者たちは「微笑ましいですね」と美談にしてくれようとしたんですけれど、綾辻さんが「それがね、なんか怖い手紙なんだよ」って言っていて、もう本当に勘弁してくださいという気持ちです……。もし今、なにかひとつ願いが叶うなら、綾辻さんの家に行ってそれを全部燃やしたい(笑)。そんなことがあったのに、よく今、綾辻さんと対談したり、お仕事ご一緒できたりするなと思います。

(2)に続く