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なぜ日本は“アップル税”回避を引き出すことができたのか? 前公取委員長が明かす「私はGAFAとこう戦った」

2021/10/15
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「グーグル断ち」は不可能

 現代人はSNSやメッセンジャーアプリ、メールなど、毎日何らかの形でそれらのサービスに接したり、更新したりすることなしに生活することは、ありえないのではないでしょうか。「グーグル断ち」「アマゾン断ち」の生活を想像することは、正直に言って、ほとんど不可能に近い。アマゾンはパソコン上でワンクリックして頼めば翌日に届くことも多いですし、消費者に多大な便益を与えていることは否定できません。私自身の生活を取ってみても、自宅に帰るといつも家内がアマゾンで頼んだ配達の段ボール箱が部屋に積んであり、それらを処理してごみ収集所に持っていくことが、私の家庭での大きな仕事になっているわけです(笑)。出品している中小事業者にとっても、市場の拡大という効用を持つサービスです。

発売されたばかりのiPhone13

“データ本位制経済”の大きな欠点

 その一方で、デジタルプラットフォーム事業は“勝者総取り”になる傾向があります。デジタルプラットフォーマーは便利なサービスをまずは多くの人に使ってもらい、そのデータを利用することで製品・サービスの性能向上につなげる。サービスの質が改善されると、ますます多くの人に使ってもらえるようになり、さらなるデータの蓄積が可能になる。こうした「ネットワーク効果」により、特定のプラットフォームへの利用者の集中がさらに進むことになります。

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 これまでの経済活動であれば、生産能力には一定の限界がありました。しかし、グーグルのサービスは1万人が使う場合でも1億人が使う場合でも、製造業のような生産ラインの増大や投資が必要になるわけではありません。プラットフォーム企業は事業を拡大しやすく、そのため市場支配力が強い事業者が容易に出現してしまう。少数に多大な利益が集中するという独占・寡占状態になりやすいのです。