昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

ブレイディ だからロックダウンで人に会えず、どこにも行けず、内面と向き合わざるを得なくなり、うつになりかけたんでしょうね。

 東畑さんの本で一番ドキッとしたのは、心がかき消されがちな時代において「個人が脆弱になってしまったことが問題の本質だと私は思う」という言葉。カウンセラーとして一人一人と向き合って実感しているから出てきた言葉で、私の考えるアナキズムと絶対つながっていると思ったんです。

アナキズムとは何か

東畑 無政府主義と言われるアナキズムとは何かを僕は知りたくて。「個が脆弱になっている」というのは、一方で「巨大な力が強くなっている」ということです。

 コロナ禍ではロックダウンなどの感染症対策で政府がすごく強かったし、気候変動のような大きな問題の前では、個人よりも集団の都合が優先されます。ブレイディさんは個をどう捉えているんでしょうか。

東畑開人『心はどこへ消えた?』(文藝春秋)

ブレイディ 個の力を信じているんです。文化人類学者のデイヴィッド・グレーバーは「人は本質的に何物に強制されなくても合理的に行動ができる」ことに賛成する人はアナキストだと言う。

 バス停で警察に「並べ」と言われなくても、人は自然に列を作り並びますよね。「私たちは放っておかれても、自ら秩序を作り出す力が備わっている」と信じるのがアナキストです。

東畑 なるほど。

ブレイディ 他者を助けるのが人間の本性なんじゃないか、という考えが根っこにある。イギリスではコロナ禍のさなか、「困ったら電話してください」と番号を書いたチラシを配って、相互扶助のネットワークが自発的に立ち上がり、機能し始めました。助け合いながら「わたしがわたし自身を生きる」――自分の意思に反するすべての支配を拒否する個であれ、という思想がアナキズムです。

東畑 お話を聞き、1人の人間の中にも支配を受け入れている部分と受け入れない部分があると思いました。日中は社会に適応した自分で生きているけれども、ふと目が覚めてしまった「魂の午前4時」には支配に抗う自分もいる。

 そんな時、僕らは普段とは違うやり方で、誰かと話したいとか繋がりたいと思う。普段は聞こえないようにしている、支配されてない自分の方の言葉がふつふつと湧いてくるからでしょう。

z