東海道新幹線利用者数は、2020年4月は前年度比10%という悲惨な状況だった。しかし、2021年4月は2020年度比349%の回復ぶり。コロナ前の2018年度比では38%で、まだまだ平時には戻らないとしても、旅客数の上昇傾向は見えてきた。この傾向はその後も続いている。この数字に「ずらし旅」も貢献しているといえそうだ。
筆者は先週、東海道新幹線の夕刻上りに乗ったけれど、乗客数は戻ったと感じた。スーツ姿だけではなく、明るい服装の女性も多かった。
「○○し旅」シリーズ化か?
「ずらし旅」のブランドは、良い意味でJR東海らしくない。JR東海といえば東海道新幹線、東海道新幹線と言えば東名阪の各経済を結ぶ動脈だ。新幹線の役割は「速くて便利」であり「楽しい」成分は少ない。だからどうしてもJR東海というと真面目で堅実、敢えて言えば堅苦しいイメージを持たれやすい。その意味では、観光庁の言葉「分散型旅行」をそのまま使うほうがJR東海らしい。
しかし、JR東海は少しくだけた「ずらし旅」という言葉を使い「楽しい」に全振りした施策を打ち出した。次に「あいち冷やし旅」を始めた。「ずらし」の次は「冷やし」。そうくるか。仕組みは「ずらし旅」と同じ。選べる体験クーポン部分が愛知県の「冷たいモノ、コト」に限定されている。2021年夏の限定企画で、体験クーポンは「かきごおり、冷酒、タコの冷しゃぶなど冷たい飲食物」「アイスサウナ」「サンセットクルーズ」などだ。ポスターのデザインも「真夏の暑さから逃れたい。渇きを癒やしたい」そんな気持ちにささった。
「ずらし」「冷やし」と韻を踏んできた。次は「推し」だ。JR東海は2021年11月以降「推し旅アップデート」キャンペーンを展開する。「推し」は、「贔屓(ひいき)」に近い感情だ。アイドルグループの中でいちばん好きな人を「推しメンバー」と呼び、「推しメン」「推し」と呼ばれるようになった。
推したい人の数だけ推し旅がある
「推し旅アップデート」キャンペーンはエンターテイメントに注目し「推しに会いに行く旅」を提案する。第一段階として、元ジャニーズJr.のメンバー7人が結成したアーチスト「7ORDER」のJR東海プレゼンツ特別公演を開催する。「推し」はヒトだけではなくモノも含まれる。日本酒推しのために、江戸時代に途絶えた「江川酒」の再現生産に係るツアーがある。動物推し、ゾウ推し向けに、のんほいパーク(豊橋総合動植物公園)のアジアゾウの象主となって年間パスを獲得し、飼育員によるバックヤードツアーもある。