約10年前の2010年6月7日、川崎市で中学3年生(当時)だった篠原真矢(まさや)さんが自宅のトイレ内で自殺した。元小学校教師の渡邉信二さんは、真矢さんが亡くなった当時、市教委の指導主事で、調査に関わった一人だ。現在、いじめなどの学校事件・事故の問題に取り組む、一般社団法人「ここから未来」のアドバイザーもしている。

 最近では、東京都町田市の小学生が、タブレット端末のチャット上で悪口を書かれるなどのいじめを受け、2020年11月に自殺した。その後の今年3月、渡邉さんは研修で呼ばれた。NHK・Eテレ「いじめをノックアウト」やNHKスペシャル「わたしをあきらめない」で取り上げられた渡邉さんの授業についてのドキュメンタリーを観た遺族が希望し、講演したという。

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いじめの加害者4人のうち、3人が書類送検

「子どもが亡くなったのは去年11月。学校が市教委に連絡したのは年明けです。報告が遅れたのを学校は遺族のせいにしている。たしかに、遺族は『いじめ自殺とは言わないで』と言っていたようですが、それを学校が鵜呑みにしたんです。当初は、遺族は混乱しますよ。正常な判断ができないし、申し訳ないという気持ちが働きます。もっと突っ込んでケアをしていかないといけない」

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 その渡邉さんが、『最後まで読まれなかった「クリスマスの物語」 川崎市中学生いじめ自死事件調査報告書から』(高文研)を出版した。

 同書の前提になったのは、真矢さんのいじめ自殺事件だ。報告書によれば、真矢さんがされたいじめは、背中を叩く、頭をはたく、肩にパンチをする。さらにはプロレスごっこ(戦いごっこ)のような形で接触をする中で、壁や床に押し付ける、馬乗りになる、頬をたたく、蹴る、ズボン下ろし、パンツ下ろし……などだ。

 これらの行為について遺族は被害届を提出。4人のうち3人が「暴力行為等処罰法違反」で書類送検された。少年審判で保護観察処分(半年程度)となった。残りの一人は当時13歳だったため、児童相談所に通告した。

奴等は、例え死人となっても、必ず復讐します

 渡邉さんがのめり込むように調査することになったきっかけは、真矢さんの「遺書」を読んだことだ。亡くなった場所のトイレ内にそれがあった。第一発見者の母親は、真矢さんを助けようとして、トイレ内にあったのを見逃し、後日、警察から知らされたものだ。その遺書の書き出しにはこうあった。

〈お父さん、お母さん、お兄さん、お婆さん、先立つことをどうかお許し下さい〉

 そして、続けてこうもあった。