——アルコール依存症を作品内で取り上げることになって、初めて思い至った、ということでしょうか。
佐倉 そうですね。調べ始めてみて、治療では「どうしてこの人はお酒を飲むのか」ってところにスポットを当てていることを知ったんですけれど、自分の中に「飲まなきゃいいだけなのに」って想いがどこかにあると、その「なぜ」の部分には思い至らないと思いました。
アルコール依存になってない人には「本人が溺れたくて溺れているわけではない」ということが分からないから、溝がどうしてもできてしまう。人が離れてしまう。
そうやってどんどん孤独になっていくと、また症状も重くなっていってしまうので、怖いです。本人が良くないと思ったからといってすぐにやめられるってわけではない事実と、それを周りに理解してもらえないことが怖いなって思いました。
「お酒飲んだら動けるって分かってたら、飲むわ」
——佐倉さんご自身はアルコール依存症をはじめ、何かしらの疾患や社会的な困難の当事者ではない立場ですよね。現実に当事者のいる問題について、漫画を描く上で大変だったことはありますか?
佐倉 私自身は、まず分かったつもりには絶対ならないようにしようと思っています。でも、だからといって当事者のことは当事者しか分からないって限定してしまうと、じゃあ宇宙人が主人公の漫画は宇宙人しか描けない。変な答えかもしれないけど、そういうことになってしまう。
創作は、自分じゃない人を描くことの方が圧倒的に多いので、「分かったつもりにならない」上で、知識や勉強、取材や他の人の話を聞いて補っていくものだと思います。
同時に、取材や、話を聞いた経験から、例えば「もし自分が育児ですごく疲れていて、お酒を飲んだらこれが解決する、動けるっていうのが分かってたら、飲むかな? ……飲むわ」みたいな、自分だったらどうするかに思いを馳せる、小さい想像の積み重ねを大切にしたいです。
あとは真並さんにいつも、「変なこと描いてたら言ってください」と言っています。「こうはならないだろ」ってこともそうですし、感動ポルノ的な感じになりそうだったら突っ込んでくれると信頼しているので。
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言葉を補い合うようにして話す佐倉氏と真並氏の間には、共に作品を作り上げてきたパートナーの信頼関係が窺えた。続く後編では、社会問題や、危機的な状況に在る方々を作品として描く漫画家の、根底にある怒りや願いに触れていく。
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