あなたはもし、入院しても完治できない病気になったら、あるいは突然事故に遭い、身体の一部が動かなくなったらどうするだろうか。
家には階段があるのに歩けなかったら? 今までの仕事ができなくなったら? 家族は協力してくれる? 治療や生活にかかるお金は? 何か制度が使える? 漠然とした不安や不自由は想像できても、実際にどうするべきか、誰が支援をしてくれるのか、患者になった自分がどんな権利を持っているのか、ピンとくる人は少ないだろう。
「病気が傷つけるのは『肉体』だけじゃない。だから『医療ソーシャルワーカー』が必要だ。」
2021年6月より、月刊アフタヌーン(講談社)にて連載を開始した「ビターエンドロール」には、そんな紹介文が記される。
医療ソーシャルワーカー(MSW)は、医療機関において、社会福祉の立場から、患者やその家族が抱える社会的・経済的な問題の解決を図る仕事だ。
9月に発売された「ビターエンドロール」単行本1巻では、脳卒中、アルコール依存症、生活保護といった、多くの人々が「存在は知っているが自分には関係ない」と遠ざけがちな課題を、人々にとっての非日常である病院と、人々の中の日常である自宅や社会を繋ぐ役割を持つ医療ソーシャルワーカーの視点で解きほぐしていく。
今回の取材では、前後2編を通じ、著者である佐倉旬氏と、担当編集者である真並紗樹子氏に、「ビターエンドロール」執筆の経緯や、おふたりが持つ医療や社会への想いを伺った。(前後編の前編/後編を読む)
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知名度が低い職業だが…
——「ビターエンドロール」では、なぜ医療ソーシャルワーカーをテーマに?
佐倉 実は私は最初、医療に関するテーマをやるつもりはなかったんですけれど、担当の真並さんに医療モノはどうかって勧められて。調べていくうちに、医療ソーシャルワーカーという仕事を描いてみたいなということで決まりました。