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「子牛が飲む母乳は、生まれた当初は1日に4~5リットルです。2カ月半ぐらいすると8リットルぐらい飲むようになります。一方、母牛の乳量は改良で極めて多くなっていて、出産初日は10リットル、2日目は15リットルというふうに増え、2カ月ぐらいでピークになります。平均すると1日に30~35リットル、多い牛だと50~60リットルも出ます。子牛にはとうてい飲める量ではありません。

 出荷できない出産から5日分だけでもかなりの量になるので、うちでは漬け物用の桶に溜めて、ヨーグルトなどを少し混ぜ、発酵乳を作って1カ月ぐらい子牛に飲ませます。大規模な農家ではかなりの分を廃棄しているのではないでしょうか」

酪農家が作る“最高のつまみ”

 松本家ではそうした初乳の余った分でチッコカタメターノを作り、「月に2、3回は食べますね」と話す。最近やや話題になってきたことから、「分けてほしい」という元酪農家や移住者が増えた。

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「冷蔵しておけば、半月ぐらい味は変わりません。いっぱい作ったら冷凍しておきます。やや味は落ちますが、かなりの期間保存しておけます」

 さて、調理方法だが、松本家の定番はやっぱり炒め煮だ。「ネギ、ニンジン、ピーマンなどを炒めてから、チッコカタメターノと一緒に醤油で煮ます。この辺では一番食べられているのではないでしょうか」と松本さんは話す。

松本光正さんがレンジで温めて包丁で切る

 松本さんが「これは美味しい」と思わずうなったのは麻婆豆腐だ。「豆腐の代わりにチッコカタメターノを使うと、コクがあって味わい深くなりました」と語る。

「温めて醤油と七味唐がらしをかけるだけの食べ方は、ほとんどの人がしているのではないでしょうか。これが最もシンプルで、おかずにも酒のつまみにもなります。食べてみませんか」と、松本さんが台所で冷蔵庫を開けた。

醤油と七味唐がらしをかけたチッコカタメターノ

 冷凍してあった作り置きのチッコカタメターノを取り出す。電子レンジで温めて包丁で切り、ほかほかと湯気が立つ状態で醤油と七味をかけてくれた。

 驚いた。たったこれだけなのに、プレーンで食べた時の香りや味とはかなり違う。牛乳の濃くて甘い香りが適度に抑えられ、醤油が全体を引き締める。七味もピリリとアクセントになり、ビールが欲しくなる。

シロップをかけるとスイーツに!

「清酒でも何でも合いますよ」と松本さんが笑う。「わさび醤油につけてもオツです」と教えてくれた。

「次はこれ」と、温めたチッコカタメターノに味噌を添えてくれた。

 からめて食べると、また合う。醤油より牛乳の香りを濃く感じるが、味噌の香りと混ざり合うようにして鼻腔を満たす。松本さんは「味噌田楽にしてもイケますよ」と言う。

味噌を添えたチッコカタメターノ
シロップをかけたチッコカタメターノ

「これはどうですか」と、今度はシロップをかけてくれた。

 口に含んで言葉を失った。乳臭さがせず、全く別の食べ物にしか感じられない。「スイーツみたいでしょう。かけるものによって、こんなに変身するんですね。蜂蜜でもいいし、ジャムでもいい。うちで一番好評だったのは柚子ジャムです」。そう説明しながら、松本さんもぺろっと平らげた。