バングラデシュ・ダッカで発生した集団テロ。痛ましく許しがたい事件ですが、ボクが衝撃を受けたのは、実行犯の大半が自国の裕福な家庭で育った高学歴の若者だということ。テロリストは「移民の貧困層、低学歴」というこれまでの定説とはまるで逆! 外資系企業や元与党幹部の息子もいたとの報に、激しく動揺してしまったの。

 まず、頭をよぎったのは二十一年前のオウムによるサリン事件。あのときも、有名大学や大学院出身で理系の若者たちが“教祖”の妄言を信じて無差別凶悪テロに手を染めました。

 当時、早稲田大などで非常勤講師をしていたボクは、学生に「エリート学生がなぜオウムに惹かれたと思うか」、アンケート調査をしたの。驚いたことに、「心情は理解できる」と答えた学生がすごく多かったんです。特に、管理社会への不満と、自己実現の場を求める気持ちには約半数もの学生が共感できると答えました。

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バングラデシュ、テロ事件の襲撃現場近くで献花する女性
Photo:Kyodo

 二十代の若者は、大人が思う以上に社会不安に敏感。そういった不安・不満から解放されたいという思いが、時に彼らを過激な思想へと走らせるのかもしれません。バングラデシュの事件の背景にも、政権与党に対する不満や、高学歴の若者ほど失業率が上昇、思うように職に就けないといった社会的閉塞感が垣間見えます。日本の若者も貧困と格差の拡大に深刻な不満を抱えていることを考えると、対岸の火事ではないはずよ。

 重要なのは若い世代に政治や社会参加を促して、「自分たちの力で社会を変えていける」という希望と実感を与えることじゃないかしら。それがテロ防止策にもつながると思う。今の若者は主権者教育も受けているし、ネットを駆使して情報量も豊富。政策立案の力量もある。ボク自身も含め、若者の問題にもっと真剣に向き合わないと。これは社会的な責任よね。