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県が若い才能を発掘できるワケ

 石井監督へのオンラインインタビューによれば、折口ミコト役の凛美、宮本ナミ役の其原有沙、柳田役の新原泰佑の3人は50人規模のオーディションの中から選ばれたキャストだという。自然体だが演技力は確かで、将来が楽しみな俳優たちだ。

 今後彼ら若手俳優、あるいは映像作家としての石井永二監督が大きく飛躍するほど、『県北高校フシギ部の事件ノート』というコンテンツはそれを所有する茨城県の手の中で輝くことになる。

ドラマ本編より©︎茨城県

「撮影はコロナ禍と梅雨と台風の中、スタッフにも抗原検査を行いながら進めました」

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 作品のもう1人のキーパーソンである企画・原案の東野みゆき氏は、オンライン取材に対してそう明かしてくれた。

「自分自身も茨城出身で、大林宣彦監督の尾道三部作や、新海誠監督の作品のように末長く聖地巡礼を生み出すような作品を自分の生まれ故郷で作ってみたかった。茨城を舞台にした『ガールズ&パンツァー』が成功していましたし、自分の好きな『映像研には手を出すな!』や『リンダリンダリンダ』などのコンテンツをオマージュしつつ、茨城を舞台にユニークなものを作れないかと考えていました」

御岩神社(茨城県提供)

 コロナ禍の中、劇場公開のリスクが読めない映画制作は中小規模の冒険が通りにくく、「安全に当てにいく」方向に流れつつあると言われる。そんな中、県自身が公費で制作し、オンラインで公開するコンテンツはコロナ禍で埋もれかねない若い才能を掬い上げる新しいメディアになりうる。それはすぐに利益の上がるシステムではないが、営利企業ではない県が運営するチャンネルだからこそ、県のPRと若いクリエイターの育成を両立させ、多様な才能を生み出す可能性があると思えるのだ。

 公費である以上、大きな予算を割くことはできないかもしれないが、『県北高校フシギ部の事件ノート』は低予算で大きな評価を獲得する、レバレッジ(梃子)のように「小さく作って大きく育てる」コンテンツとして成功していると思える。