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 2018年に入団してきたルーキーの大下佑馬は、6月下旬に一軍にコールアップされたが、正直なところ、「大丈夫かな」と思って送り出した。一軍との話し合いでも、「経験の意味合いもあるから」ということだった。ところが一軍での登板を見ていたら、「あれ、こんな球を投げられるのか」とびっくりしてしまった。キレがあり、一軍の投手らしくなっていたのだ。たぶん、一軍のマウンドで何かをつかみ、自信を持ったのだろう。

「再現性」を作ることは、プロの世界ではとても重要なこと

 僕の一軍の投手コーチとしての経験、そして二軍監督として現場を預かった身からすると、大下のように一軍で化けるケースが時としてある。ただし、珍しい。それよりも、二軍にいる時にまったく予兆なく、「わっ、いきなり球が速くなってるぞ」とか、「えーっ、こんなにボールを飛ばせるようになったのか!」といった、驚くような進化を見せる選手がいる。

 過去には、阪神タイガースの藤川球児がいきなり速球派に変身したことなど、二軍の世界ではこうした「覚醒」がしばしば起こりうるのだが、大下は一軍で化けるという珍しいパターンだったのだ。

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©文藝春秋

 もちろん、ゆっくりうまくなっていく選手もいる。こちらのケースの方が多いだろう。打者だと、外角の球をうまくさばいてヒットにしたのが偶然なのか、それとも技術が身についたからなのかどうかは、しばらく様子を見てみないと分からない。指導者としては、それが再現できるように手助けをすればいい。「再現性」を作ることは、プロの世界ではとても重要なことだ。

 ゆっくりうまくなっていった選手ならば、再現できるように気づきを与え、それによってより覚醒してくれれば最高の流れになる。野球が面白い状態になれば、すぐに表情に表れるので、「やる気出てきたなあ」と分かる。

 ただ一方で、二軍でドンと技術が落ちる現場を目撃することもある。こういう時は、明らかに表情が沈んでいるケースが多く、どうアドバイスをするべきか、悩むことも多い。

二軍と一軍のギャップをどう乗り越えるか

 育成で難しいのは、喜び勇んで一軍に行ったものの、まったく結果を残せずに二軍に落ちてきた選手たちへの対応だ。かなり落ち込んでいることもあるし、技術だけでなく、精神面での“治療”に当たるのは切ない。

 プロ野球選手にとって、二軍と一軍の「ギャップ」をどう乗り越えられるかが、成功できるかどうかのカギになる。

 ギャップとは、たとえば高校からプロに入った時に感じる体格や、技術的な「差」のことで、二軍から一軍に上がった時にも、大なり小なり誰もが感じることだ。