ただ、ヒット曲という切り口で嵐のことを考えると不思議な点がある。
嵐は平成を代表する国民的グループだ。トップセールスのシングルだって沢山ある。2008年の『truth/風の向こうへ』、2009年の『Believe/曇りのち、快晴』は共にオリコン年間1位であるし、AKB48が上位を席巻するようになった2010年以降もシングルはほぼ年間TOP10入りを果たしている。しかし、嵐の「国民的ヒット曲」は何かと考えると悩んでしまう。
ファンだけでなく多くの人が曲名だけでサビのメロディと歌詞のフレーズを思い浮かべられるような歌を「国民的ヒット曲」とするならば、嵐の場合、それはどの曲になるのだろう。デビュー曲の「A・RA・SHI」だろうか。ドラマ『花より男子2』主題歌の「Love so sweet」だろうか。もしくは誰もが認める人気者となった2008年の「One Love」や2009年の「Believe」だろうか。もしくは、グループ初のミリオンセラーとなった2020年の「カイト」だろうか。
そう考えていくと、嵐というグループの巨大な人気とセールスに対して、曲自体が流行歌として多くの人に歌われて広まったり、社会現象を巻き起こしたり、時代の象徴になったような例が少ないことがわかる。
そのことを傍証するのがカラオケのランキングだ。DAMとJOYSOUNDがそれぞれ発表している年間カラオケランキングでは、1999年から2020年の間で年間20位以内に入った嵐の楽曲は1曲もない。
相葉雅紀・松本潤・二宮和也・大野智・櫻井翔という5人の名前と顔は広く知られていたけれど、その存在感に比べると、世代を超えて誰もが思わず口ずさんでしまうような嵐のヒットソングは多くない。そういう意味では、後述するいきものがかり「ありがとう」のヒット曲としてのあり方とは対照的だ。
嵐と日本のヒップホップとのミッシングリンク
嵐の音楽性とその背景の時代性を考える上では、もうひとつの特筆すべき点がある。
それは、彼らがヒップホップの、日本語ラップのカルチャーをアイドルグループとして取り入れた先駆的な存在だった、ということだ。
デビュー曲「A・RA・SHI」が、そもそもラップを大々的にフィーチャーした一曲だった。この曲がリリースされた1999年はDragon Ash「Grateful Days」がヒットし、この曲にフィーチャリングで参加したラッパーZeebraの「俺は東京生まれ HIP HOP育ち」というリリックが一世を風靡した年である。
嵐においてデビューからラップを担ってきた「東京生まれ ジャニーズ育ち」の櫻井翔もまたヒップホップに大きな影響を受けた少年時代を過ごしてきた。