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監督の「夢に出てきた」対戦相手

 眞鍋は、五輪前から日本がメダルに到達するかどうかは、8月7日の準々決勝が鍵になると読んでいた。長い間突破できなかった準々決勝をクリアし、しかも最も苦手としていた中国を接戦の末破ったのは、選手の頑張りもさることながら、大きな理由が隠されていた。眞鍋が五輪前の合宿期間中から準々決勝の相手は中国と想定し、中国対策を万全にしてきたからである。

 準々決勝の組み合わせは、出場12カ国がAグループとBグループに分かれて予選ラウンドを戦い、それぞれの2位と3位の4チームは、抽選で対戦が決まる仕組みだった。まだ大会がはじまらず、しかも抽選で決められる対戦国を眞鍋はなぜ中国と想定できたのか。木村が笑顔で明かす。

ロンドン五輪で指示を出す眞鍋監督 ©文藝春秋

「夢に出てきたから間違いないって、わけが分からないことを言うんです」

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「夢に出てきた」ではあまりにも説得力がない。それこそ、夢物語のような話を選手たちは信じたのか。大友が平然として言う。

「だって、眞鍋さんの言うことはこれまでだってその通りになっていますから、私は相手が中国だと疑問すら抱きませんでした」

 10年以上も全日本のユニフォームをまとい、何人もの代表監督の下でプレイしてきた竹下も、苦笑いした。

夢の通り、準々決勝で中国と対戦することに

「眞鍋さんの言うことって、むかつくほど当るんですよ。私は慎重な性格なので、そうかな? と思うときもありましたけど、結局、眞鍋さんの言う通りになってきた。でも、それは勘とかじゃなく、常にアナリストが分析する膨大なデータを読み込んでいるからこそ、見えてくるものがあるんだと思います」

 夢に出てきたという眞鍋の説得力に欠ける話を、選手たちは疑わなかった。そこにこのチームの強さがあったと言っていい。

ロンドン五輪での木村沙織 ©文藝春秋

 事実、総当り戦の予選ラウンドを勝ち上がって来たのはAグループの1位がロシア、2位イタリア、3位日本、4位ドミニカ共和国、Bグループは1位アメリカ、2位中国、3位韓国、4位ブラジルで、決勝トーナメントはそれぞれの1位と4位が戦い、AB両グループの2位と3位が抽選をした結果、眞鍋の目算通りに日本は準々決勝で中国と対戦することになったのだ。

 眞鍋も笑いながら言う。

「ホントに夢に出てきたんですよ。6月のワールドグランプリのときと、スイス合宿のときだったかな。これまで日本の壁と言われてきた、準々決勝を突破しないことにはメダルもないって四六時中考えていたら、中国と闘っている夢を見たんです。僕、結構夢に現実が出てくるんですよ。選手の起用に悩んでいたときとか、戦術が決まらないまま寝ると、ふっと夢に出てくる。それが正解かどうか分かりませんけど……」

 首をかしげながら、言葉をつなぐ。

「多分、僕は毎日スタッフとミーティングをしているし、焼酎を飲みながら話すこともあって、そこで彼らからもたらされる情報の質が高いからなんだと思いますよ。彼らの話を頭につめて寝ると、眠っているうちに答えが出てくるということなんじゃないですか」