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拘置所内には“確定死刑囚”の“心を支える貴重な場所”がある…日本人のほとんどが知らない“死刑囚のリアルな暮らし”

『ルポ死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル』より #1

2021/12/07
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「塀の中のエリート」が見た死刑囚

 収容中の確定死刑囚について、その具体的な状況を知る数少ない関係者の一人が、被収容者の身の回りの世話や食事の準備、配膳、清掃などの雑務をこなす「衛生夫」だ。

 衛生夫は、判決で懲役刑が確定した受刑者のなかから選ばれるが、初犯で犯罪傾向が進んでおらず、一定程度の学力を有している人物が対象とされる。刑務官の右腕として働く、いわば「塀の中のエリート」だ。東京拘置所にも、全体の被収容者のうち200人ほどが衛生夫として労務に服している。

 このうち、ごく一部の衛生夫が、死刑囚が多く収容されているフロアの担当として配置される。東京拘置所で約2年にわたり、衛生夫として服役した江本俊之さん(仮名)もその一人だ。

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 江本さんは実刑判決が確定後、未決囚として収容されていた東京拘置所から移動せず、そのまま衛生夫として仕事に従事することとなった。衛生夫としての配属先が言い渡される際、担当の刑務官から「そこはブルーゾーンだから、とくに気をつけてほしい」と注意されたという。

 説明を受けた後、別の刑務官から、ブルーゾーンとは長期にわたって収容されている人のいる場所のことを意味すると教えられた。

「長いからいろんな人がいるので気をつけろよ。『長い』っていう意味は、わかるよな」

 刑務官はそうつけ加えたが、最後までそのフロアに確定死刑囚が収容されているとは口にしなかった。

 江本さんが担当したのはC棟の11階。66の独居房があり、30名ほどの確定死刑囚が収容されていた。配属されたその日から、各房へ食事を配ったり、掃除をしたり、頼み事を聞いたりと、確定死刑囚たちと身近に接することになった。そのなかには、オウム真理教の元幹部たちのほか、袴田さんも含まれていた。

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