「僕らが若手時代、猪木さんがよく『どんなに素晴らしい試合よりも、街のケンカのほうがおもしろい』って言ってたんですよ。要は感情剝き出しのケンカこそが、人の目を惹きつけるっていうことですよね。それで僕と小林さんは若手時代、お互いライバル心があったから、本当にケンカに見えるような気迫剝き出しの試合をしていたんですけど、タイガーマスクになってからも、その気迫を出しながら、ストロングスタイルの試合ができたんですよね。それは小林さんに対するリスペクトがあるからですよね。
“勝ちたい”だけのレスラーほど、“刀”を持ってない
プロレスって、やっぱり相手を尊敬できないといい試合にならないんです。たとえば、僕は試合後に頭に来て、レス・ソントンを蹴飛ばしてKOしちゃったことがありましたけど、彼の試合には相手へのリスペクトがなかった。それで、試合が終わってから蹴ったんですけどね。
彼がなんでそういう試合をしたのかわからないですけど。ただ単に、負けたくなかったんじゃないかと思うんですよね。そういう自分が勝ちたい、勝ちたい、だけのレスラーほど、“刀”を持ってないレスラーが多い。刀を持ったレスラーほど、プロとしてしっかりと仕事ができるんですね」
佐山は格闘技を志しながらも、新日本のプロレスに対してはプライドを持っていた。それだけに、刀を持っていない選手との試合は、佐山にイライラを募らせた。
新日本のストロングスタイルが空洞化
「ダイナマイトやマーク・ロコ(ブラック・タイガー)、小林さんらとは、しっかりとしたストロングスタイルの試合ができたんですけど、メキシカンが相手だとルチャ・リブレしかできない選手もいて、どうしてもメキシカンスタイルになってしまうんですよね。そうなると学芸会みたいなことをやり始める人もいて、『これが続いたら新日本がダメになるな』と思いましたね」
新日本は、タイガーマスクの対戦相手として、メキシコのマスクマンを毎シリーズ呼んでいた。覆面を被り、空中殺法を得意とする彼らは、タイガーマスクの相手としてうってつけと考えたのだろう。しかし、それは佐山が新日本でやりたい闘いではなかった。「あるメキシカンとの試合後、小さい子供のファンにも言われましたもん。『僕でもホントじゃないってわかる』と。子供のファンは、すごく真剣に見てくれているから、本質がわかったりするんですよ。逆に大人は、タイガーマスクがウケすぎちゃっていたので、それが見えなくなっていた。『飛んだり跳ねたりしていればいいじゃないか』みたいに思ってる人が多かったんです」