過去の葛藤を乗り越え…
実は沢村さんは引退後、僕の関係者の会社に勤めていたので、のちに知り合うことができたんですけど、本当に人格者で尊敬できる人です。おじいさんが空手の先生をやっている武道家で、沢村さんがキックボクシングにいった時、一度勘当されたんですね。『なんで、そんな拝金主義な世界に手を出すんだ』みたいな感じで。
でも、沢村さん本人はキックボクシングをやっても、テレビのスターみたいに祭り上げられるのは本意じゃなかったんですよ。ショー的な要素を含んだ闘いも、求められるから責任感でやっていただけで、本当の考え方や姿勢は武道家です。そこが自分に似ていると言ったらおこがましいけど、僕自身は共感する部分がありましたね」
テレビが生んだ70年代のスーパースター沢村忠は引退後、“キックの鬼”としての過去を封印し、生涯表舞台から姿を消した。一方、同じくテレビが生んだ80年代のスーパースター、初代タイガーマスク佐山聡は、過去の葛藤を乗り越え、今も黄金の虎として活動している。
「蔵前でダイナマイト・キッドと闘ってから、もう40年が経ちますけど、いまだに50歳前後の大人の男性が、僕と会うだけで涙を流して喜んでくれたりするんですよ。『やっと会えました』みたいに言われたりして。それは僕にとっても、本当に幸せなことですよね。
“初代タイガーマスク”とは
そういう多くのみなさんの心に、タイガーマスクが今でも深く心に残っているんだと知ってからは、僕自身、もうタイガーマスクを裏切れないです。『自分がやってきたことには意味があったんだ』と、今になって思います。
だから沢村さんのように過去を封印するという方法もあるし、僕自身、人前に出たりするのはそんなに好きじゃないけど、これからも初代タイガーマスクとして、猪木イズムのプロレスを残して発展させていかなきゃいけないと思ってますね。
“初代タイガーマスク”というのは、僕一人で作り上げたものじゃないんですよ。僕はよく『タイガーマスクとは、新日本プロレスの叡智、猪木イズムの結晶です』と言ってるんですけど、僕が新日本の若手時代に3年間叩き込まれたストロングスタイルなくして、あのタイガーマスク人気というのはありえなかった。だからこそ、その思想は残していきたいですね」
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