会長、総裁のためなら「命を張る」
田上理事長は「わしも会長には3日前に会ったきりだ。毎日、ここには来ているが、わしが無理して会長に会うと、他の者も会おうとするので会っていない。ほかの部分は何ぼでもみてもらっていい」
本家2階は野村会長の居室部分で、寝室、クローゼットなどがあった。だが、捜索するなとの要求には応じられるわけもない。ただ、野村会長が数日前から体調を壊しているかもしれない、という情報は入手していた。
「会長が具合が悪いんなら、その点は配慮します。だが、捜索しないということはできない」私はそう答えた。田上理事長は、野村会長のことに関しては、細心の注意を払っていると感じた。「もし会長が酷くなったらどうするんか!」田上理事長は段々と興奮してきた。「それは仕方ないやないですか」ここで私が口を滑らせた。
「仕方ないとは何か!」田上理事長は顔色を変え怒鳴った。そこでT幹事長が「理事長、ちょっと外しとかんですか」と引き取り、田上理事長は席を外した。
「警察がそげん言うなら、わしらはみんな出て行くですよ。立会人がおらんかったら困るでしょう。ここに立会しきる公務員なんか一人もおらん」T幹事長は続けた。
「会長がご病気というなら、そこは考慮します。どうしても立ち会わないというなら、こちらも考えがある」実際には妙案はなかったが、譲るつもりはなかった。
結局、会長の寝室はS組長が立ち会い、班長以下必要最小限の捜査員で捜索を行うこととした。
間もなく、田上理事長が戻ってきた。さっきとは打って変わって冷静になっていた。そこでしばらく雑談した。
「わしらは会長や総裁のためには命をはっとるですけ。わしの家ならしっちゃかめっちゃかしてもらってええですよ」
私は、最近、工藤会が警察との窓口を閉鎖し、警察との接触禁止を指示したことを聞いてみた。すると理事長は「警察とはものを言わないし、窓口も置かない。私が10日の日に指示した。これが会の方針です」と答えた。
田上理事長にとって、野村会長、溝下総裁は絶対の存在、特に野村会長に絶対の忠誠を誓っていることを強く感じた経験だった。