警察で暴力団を専門に捜査する「マル暴」と呼ばれる刑事について描いた著書『マル暴 警視庁暴力団担当刑事』(小学館新書)を上梓した警視庁の元警視・櫻井裕一氏。「#1」ではこれまで氏が捜査に従事してきた事件などについて聞いた。後編となる「#2」では、その「マル暴」たちの捜査活動の実態について語ってもらった。

(聞き手/ノンフィクション作家・尾島正洋)

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マル暴刑事にヤクザファッションが多い理由

――マル暴刑事はヤクザと同じようなファッションに身を包んでいる人も多いです。こうした身なりは必要なのでしょうか?

櫻井 その道に行くと、なじんでしまうというのはあります。敵ながら「あのファッション格好いいな」と思うと真似してしまいますよね。でも、銀行マンのような身なりをしているマル暴刑事もいるんですよ。それは個人で決めることです(笑)。

 私の場合は、マル暴になる時に先輩がヤクザっぽい格好をしていたので、その影響が強いですかね。捜査を通じてヤクザと接触していくうちに、相手の背広とか、そういう格好をまねするようになる。ただ、基本的にスタイルは各捜査官お任せです。

著者の櫻井裕一氏 ©文藝春秋

 服装にうるさい人もいましたが、私は格好で仕事をしているとは思っていません。芯が通っていてちゃんと捜査ができればよいのです。博打班のマル暴は潜入することもあり、博打場に通う客を装わなければならないため、私から見ても、「これが刑事かよ」という身なりの人もいますよ。大きく言えば仕事をすればよい。格好ではありません。

――著書の中でヤクザの背中の刺青の写真を撮っていたとの記述があります。撮影の目的についてお願いします。

櫻井 1978年に3代目山口組組長を銃撃した男の遺体が見つかった際に、背中の刺青が一部だけ残っていました。遺体の指紋は削り取られ、歯も折られていましたが、刺青から人物を特定することができました。

 同じように、自分が逮捕して取り調べたホシが、後になってどこかで捨てられるようなことがあっても、無縁仏にはしないという気持ちで、目的を説明してから撮影をしていました。