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「いじめの『重大事態』調査をしないのは違法」画期的な判決がいじめ対策に与える“重大な影響”

被害生徒は「絶対助けてくれると思った人たちに助けてもらえなくて…」

2021/12/17
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争点1:「職務上の義務に反した」教諭らの3つの対応

 争点の1つは、学校の教諭らの対応だ。1年の担任はLINE外しという典型的ないじめにも関わらず、その重大性を認識せず、被害者の健太さんへの聞き取りや調査、部活顧問との情報共有を行わなかった。この点について、判決では、精神的に苦痛を与える行為として、いじめ防止対策推進法の「いじめ」に該当するとした。しかし、サッカー部内の集団的あるいは連続的ないじめは受けておらず、別のいじめを防止するための措置をとる義務は負わないとした。

 部活の顧問が健太さんに対して、指導として頭を叩いたり、耳をひっぱったりしたことについて、裁判所は「原告に対し少なからぬ程度の有形力を行使したものと認めるのが相当」として、体罰を認めた。これが健太さんのノートの記載に余白が多いことに対する指導方法としては認め難いとした。さらには、被告側は、健太さんが喜んでいたと主張したが、裁判所は認めなかった。

 また、健太さんが部員とのトラブルによって自傷行為に及んだことを母親から伝えられており、その後、部員らが健太さん宅を訪れなくなったことを学校の教員は知っていたため、孤立状態になる恐れを認識していたはずとした。その上で、16年10月24日には、最初の不登校と合わせて30日になったことから、「重大事態」を認識し、健太さんに対する言動やその背景事情について、調査票を用いるなどの調査をし、その結果に応じた適切な方法で部員らを指導し、健太さんへの支援を行うべきだったとした。

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 さらに、教頭は、部員らの保護者に対して、「いじめはなかった」旨を伝えた。しかし、十分な調査を行なっていないため、根拠を欠くことは明らかで、「ありもしないいじめを訴えている」という印象になった。そのため、健太さんの不信感や反発を強め、登校のさらなる障害になったとし、「いじめはなかった」などの発言をしない義務を負っていたという見解を示した。

 つまり、学校の教諭らについては、(1)顧問が体罰を加えたこと、(2)遅くとも16年10月24日以降、重大事態としての調査を行わなかったこと、(3)校長と教頭、顧問が「いじめがなかった」旨を発言していたことが、職務上の義務に反し、国家賠償法上の違法になる、とした。