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 菅氏不出馬を受けた自民党総裁選は、決選投票の末、元政調会長の岸田文雄氏が、現職の行政改革担当相だった河野太郎氏らを破って当選し、第百代の首相に就任した。コロナ禍の下であるからこそ、国民に信頼される強いリーダーを選ぶ総裁選であるべきだったと思う。だが実態は「キング争い」ではなく、誰が陰で政権を支配するかの「キングメーカー争い」だった。そこで影響力を誇示したのが安倍氏だったのは言うまでもない。

©文藝春秋

なぜ岸田が勝ったのか

 もう一つ、岸田氏が勝利した大きな要因があった。参院議員票である。

 突破力の河野氏か、安定感の岸田氏か。衆院側には河野氏の方が「自民党は変わった」と国民にアピールできて衆院選の即効薬になると期待する議員が多かった。一方、参院側には「強引さが目立つ河野氏が果たして参院選まで持つのか」と不安を抱き、岸田氏の方が安心だとみる議員が少なくなかった。安倍氏周辺からも「河野氏では3カ月と持たない。第一次安倍政権当時の2007年夏の参院選で自民党が惨敗し、衆参のねじれが生じた時の二の舞になる」との声が漏れていた。

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 仮に総裁選直後の衆院選で自民党がどうにかしのいだとしても、次の参院選で与野党逆転を許せば、「ねじれ国会」となる。政府の政策や法案が通らず、そのまた先の衆院選は厳しくなる。結果、自民党が思い出したくもないであろう政権交代が再来するかもしれない……というわけだ。この懸念が総裁選を左右した。

 野党も同様だ。衆院選で過半数を奪い、首相の座が転がり込んできたとしても参院が少数であるのは変わらず、政権の国会運営は難しい。実際、立憲民主党は衆院選で政権交代を狙うより、参院選で与野党逆転を狙うのが先だと考えていたフシがある。このため「できれば菅首相のままで参院選まで戦いたかった」という本音が党内から漏れたほどだ。

立憲民主党の代表を辞任した枝野幸男氏 ©文藝春秋

 宮沢喜一氏以来、久しぶりの宏池会政権となった岸田政権の発足に戸惑ったのも立憲民主党である。分配を重視し、新自由主義からの脱却をうたう岸田氏の主張は、立憲の枝野幸男代表が訴えてきたことと、ダブるからだ。むしろ河野政権だった方が自民党は混乱し、参院選は立憲に有利だったと考えているだろう。