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 こちらも、やや乱暴とはいえ、一応、筋は通っている。それにしても、文章で読むと論旨はきわめて明確なのに、なぜ、それがテレビでは伝わらなかったのか。それは、太田の質問が、政策や政党の方針などを根本から疑ってかかった上での、いわば「そもそも論」だからだろう。

過去にも、政治家に対して過激な発言

 この手の質問にわずかな時間で答えるのは難しい。下手に答えれば、あとで問題を引き起こすこともありえる。そう考えると選挙特番には不向きなのだが、しかし、それをやめろと言うなら太田光を起用する意味がない。なぜなら、太田光の本領は、何事においてもあらゆる枠組みを疑わずにいられないところにこそあるからだ。

 そもそも太田が政治家に対し過激な発言をして批判されるというのは、いまに始まったことではない。10年以上前には『太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中。』(日本テレビ系)という番組で政治家と毎週議論を繰り広げていたし、NHKの『爆笑問題のニッポンの教養』でもゲスト出演した学者と意見の相違から対決姿勢となることも何度かあった。

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田中裕二 ©文藝春秋

 太田は雑誌などで政治や社会問題について書いたり語ったりすることも多いが、先に引用した文章からもうかがえるように、そこでは笑いの要素をほとんど排し、ストレートすぎるほどの意見が述べられている。それらを読むと、テレビで政治家を茶化すのは照れ隠しでないかとさえ思える。

 こうした太田のスタンスに、お笑い芸人がそこまで真面目に語らなくてもいいのではないか、という意見もあるだろう。実際、『太田総理』を始めた頃は世間の反応も「文化人気取りか」というのがほとんどで、本人も落ち込んだという。自分の目指す笑いのスタンスとも違うので、彼のなかでは葛藤があったらしい。11年前の対談では次のように語っている。

ビートたけしのカッコよさ

《お笑いでカッコいいのは、植木等さんみたいに無責任男として全部ギャグにして、その時代を少し取り入れて人を明るく楽しくすることで、俺もああいう人になりたいんですよ。でも、どうも俺はそういうタイプじゃない(笑)。言いたがりの部分もあって、どストレートなことを言わずにはいられない。それを何か芸にして、と言っている自分もだんだんイヤになっちゃって、カッコ悪くてもいいじゃんと。(中略)たけしさんは『TVタックル』で何も言わないでしょ。あれは芸人としてカッコいいんですよ。いろいろ思ってるんだろうけど、野暮が嫌いだからマジな話にしない。もしたけしさんがワーッと言っていたら、俺はそこはもういいやと思ったかもしれない》(※2、原文では「どストレート」の「ど」に傍点)