前稿の「緑茶」に続き、本稿も日本人が大好きな食材の持つがん予防効果について解説します。
それは「大豆」です。私たち日本人の周りには、数多くの大豆製品があります。豆腐、納豆、味噌、枝豆、おから、豆乳……。大豆製品が1度も食卓に上らない日はないと言っても過言ではないでしょう。
しかし、世界的に見るとこれは非常に珍しいことで、日本ほど大豆製品を消費する国は地球のどこを探してもありません。そしてこの大豆製品に、がん予防を考える上で非常に効果的な機能をもつ可能性があることがわかってきたのです。
大豆には「イソフラボン」というポリフェノール成分が含まれています。他のマメ科の植物にも含まれますが、特に大豆のイソフラボン含有量は多いことから「大豆イソフラボン」と呼ばれることもあります。
イソフラボンは、体内に取り込まれると女性ホルモン(エストロゲン)の受容体に結合し、促進的あるいは競合的な作用を発揮すると考えられています。そのため性ホルモンが発がんに関係する乳がんや前立腺がんなどとの関連性が以前から指摘されてきました。事実、大豆製品をよく食べる日本人は、乳がんや前立腺がんの罹患率が低いのです。
そこで国立がん研究センターが実施した多目的コホート研究では、イソフラボンと発がんのリスクを調べるため、10年間にわたる追跡調査を行いました。
すると、イソフラボンを多く含むみそ汁を「1日に3杯以上飲む人」は、「1日に1杯未満しか飲まない人」と比較して、乳がんになるリスクが40パーセントも低下する結果が出たのです。この調査では、みそ汁以外にも豆腐や油揚げ、納豆などの大豆製品の摂取量と発がんの関連性を調べていますが、いずれの食材においても乳がんの発生率を低くする結果が得られています。つまり、大豆に含まれるイソフラボンが、エストロゲンによりリスクが高まる乳がんに対しては競合的に作用して予防効果を示したことが考えられます。
一方、同じ性ホルモンである男性ホルモンが深く関与する前立腺がんについて見てみると、これもイソフラボンが予防に役立つことがわかりました。ただし、こちらはがんが前立腺に限局するタイプでのみ予防効果を見せており、他の臓器や骨などに転移する「進行性」の前立腺がんに対しては、逆に発生リスクを高める結果が表れています。この点、女性と違って男性の場合は注意が必要です。
すでに触れたとおり、イソフラボンはエストロゲンという女性ホルモンと化学構造が似ているため、閉経前の女性では競合的に、また、エストロゲンが減少する閉経後の女性においては促進的な働きを示すものと見られています。その意味で大豆製品は、乳がんだけでなく閉経後の女性がかかりやすい骨粗しょう症の予防にも役立つ食材とも考えられています。
しかし、大豆製品を過剰に摂り過ぎると、エストロゲンが過剰な状態を作り出すことになってしまいます。エストロゲンは少なすぎても問題ですが、増えすぎても乳腺や子宮に対して悪い影響を与えます。サプリメントで摂り過ぎると子宮内膜増殖症のリスクが高まったという報告もあるので、1日摂取量の上限が定められています。納豆(50グラム)なら1日2パック、豆腐(300グラム)なら1丁程度を上限の目安として、上手に摂取しましょう。