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人間の労働の「ナチュラルな」リズム

 より詳細にいうと、中世後期以来の時計の発明と進化、同時期の商人たちの活動の活発化にともなう「時は金なり」に集約されるモラルの発展、そして産業革命以降の産業資本主義の展開と労働者の規律といった契機が絡み合って、ひとつの社会のかたちを形成するその過程を歴史学的に分析してみせました。

 かれはこうした資本主義的モラルの浸透以前の仕事のありようを「タスク指向」と表現しています。その特徴は、

(1)時間労働よりも人間的にわかりやすい。農民や労働者は、必要性をみてとりながら活動する。
 

(2)タスク指向が一般的な共同体では「仕事」と「生活」のあいだの境界線がほとんどない。社会的交流と労働は混ざり合っており、労働日は仕事に応じて長くなったり短くなったりする。


(3)時計で計られた労働に慣れている人間にとって、このような労働態度はむだが多く、緊張に欠けているように映る。

 トムスンはこういっています(グレーバーも引用している箇所です)。

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 人々がみずから労働生活を統制している場所であればどこでも、労働のパターンは激しい労働と怠惰とが交互にくり返されるというものだった(このパターンは現在でも、アーティスト、作家、小規模農家、そしておそらく学生もふくむ、一部の自営業者に残っており、それが「本来的な」人間の労働のリズムではないのかという問いを喚起してくれる)。言い伝えによれば、月曜日と火曜日には、織機はゆっくりとした速度で「時間はたーっぷり、時間はたーっぷり(Plen-ty of Time)」と声を上げる。だが木曜日と金曜日には「一日中、カタカタ、カタカタ(A day t’lat, A day t’lat)」と声を上げる[強調引用者](*1)
 

*1 E. P. Thompson, “Time, Work-Discipline, and Industrial Capitalism,” Past & Present, 1967, No. 38, p.73.

 それが「ナチュラル」な人間の労働のリズムではないか、とトムスンはいっていますが、たしかに、人類学の観察はこの推測を裏づけています。人類はたいてい、ほうっておくならば、このように周期的な仕事の形態をとるわけです。