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コロナ禍の影響で大阪に通うことができなくなった

 高校卒業を前にして高田は三段リーグ入りを果たし、地元の岐阜新聞で大きく報じられた。岐阜県から三段リーグ入りしたのは2人目で、まだプロになれた者はいなかった。

 最初の参加となる第67回三段リーグは、コロナ禍の影響で2ヶ月半遅れて開幕した。この間、高田は緊急事態宣言のために大阪に通うことができなかった。

「最新の将棋は将棋会館に行って人と指すことで吸収していました。その情報源がなくなったことが辛かったです。もともと右玉ばかりやっていたので序盤の勉強は遅れていたのですが、奨励会では最新形はお互いに怖いので踏み込まないんです。それで二段までは間に合っていたんですけども」

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 藤井が挑戦を決めた第91期ヒューリック杯棋聖戦はすでに開幕し、初戦を藤井が勝っていた。

「藤井先生がタイトル戦に出られたことには、特に驚きはなかったです。その2ヶ月前に棋士室で指していただいたのですが、5局やって僕の全敗でした。奨励会時代にはまったく雲の上の存在で、ライバルとして意識したことがない。上の世代を見るような感覚でした。自分が三段に上がって、ようやく藤井先生の将棋の内容が理解できるようになり、勝負したい気持ちが出てきました」

 

次は自分が優勝したい

 2021年3月に放送されたABEMAトーナメント・団体戦において、藤井聡太二冠(当時)が指名したのは、伊藤匠四段と高見泰地七段だった。各チームのリーダーが指名を行うドラフト会議を、高田は自宅で視聴していた。三段リーグ2期目が佳境を迎えた頃である。

 伊藤は高田と同学年だが奨励会入会は1年早く、昇級・昇段もずっと先行していた。所属がそれぞれ関東と関西に分かれるため、互いに話をしたことはない。高田は伊藤の存在を目標にしてきており、三段リーグで並んだときは嬉しかった。だがその期に伊藤はリーグ1位で昇段を決め、二人が盤を挟むことはなかった。

「棋士の間で話題になったのですが、藤井先生はファンの気持ちを考えていると。伊藤君が最年少で注目されていたので、ファンの期待に応えた人選だなと感じました。羨ましくはなかったですが、伊藤君がどれくらいやれるのか興味はありましたね。正直、あんなに強いとは思っていなかった。彼は初段から三段まで少し停滞していたので、まだそれほどじゃないと予想していたのですが。序盤の知識がすごいと思った。ずっと努力してきたんだろうな……。最初はチームに入りたかったですけど、今の自分では伊藤君みたいな活躍はできなかったと思います」

 2021年春、高田は三段リーグをわずか2期で突破し、18歳9ヶ月でプロ入りを決めた。

 その半年後、第52期新人王戦の決勝に、伊藤匠四段と古賀悠聖四段が進出した。

「二人とも、プロ入りが僕と半年しか違わない。それで決勝の舞台に立っている。伊藤君もそうですけど、相手の古賀君も追いかけていきたい。次は自分が優勝したいという気持ちになりました」

 伊藤は新人王戦で初優勝を飾り、2ヶ月後には藤井へのタイトル戦挑戦者を決める王位リーグ入りを果たした。