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「最初は6割くらい勝っていました」高田明浩少年が得意戦法“右玉”を同い年の藤井聡太にぶつけた日

「最初は6割くらい勝っていました」高田明浩少年が得意戦法“右玉”を同い年の藤井聡太にぶつけた日

『田舎棋士、出陣す!』高田明浩四段インタビュー #1

2021/12/31
note

 2017年関西将棋会館――。

「50秒、1、2、3……」

 秒を読み上げながら、記録係の高田明浩は伸びかけた坊主頭をしきりに掻いていた。どうも朝から頭が痒い。高校が冬休みになってから、将棋会館に泊まり込んで連日記録を録っている。昨夜は順位戦で終局が遅くなり、銭湯の開いている時間に間に合わなかったのだ。(全2回の1回目/後編を読む

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ワンパク小僧がそのまま大人になった

 目前の対局は終盤を迎え、盤を睨む棋士の気迫が伝わってくる。普通の奨励会員なら小さな音を立てるのも気にするが、高田は記録机の席にドンと座って頭をガリガリやっていた。がっしりとした肩幅に太い腕。ワンパク小僧がそのまま大人になったようだ。

 地方に住む高田にとって、プロの生の対局を観ることは重要だった。醸し出す雰囲気、実戦の勘、学べるものは全て吸収したい。局面に集中するほど体が熱くなり、無意識に手が頭部に伸びる。短い髪が弾かれるようにガリガリと音を立て、秒読みの声と重なった。

「うるさいぞ!」

 とうとう対局していた棋士が一喝した。

(ちょっと掻きすぎちゃったな)

 高田は背筋を正して、恐縮した様子を見せた。

歳上にも平気でタメ口を使ってきた

 小学生で野球を始めたときから坊主頭にしてきた。奨励会に入ってからも変わらなかったが、高校生になってスポーツ刈りにしようと思ったこともある。でも自分のことだから、髪を伸ばすと手入れを持て余すだろう。短い髪の方がより衛生的だし、泊まり込むにも都合がいい。そういうわけでプロになった今も坊主頭のままだ。頭髪は月に1回くらい、父親にバリカンで刈ってもらっている。

高田明浩四段(19歳、右)と自宅で学習塾を開いている父親の浩史さん

 高田は、いわゆる文士タイプの棋士のイメージではない。太陽の下でバットを振っているのが似合う感じだ。奨励会時代から物怖じしない居住まいで、盤の前に胡座でどっかりと座る。歳上にも平気でタメ口を使ってきた。勝負をする者とは、気持ちの上で対等でなければいけないからだ。こんな太々しさを師匠の森信雄七段は良い意味で野性的と評する。

「頑固なところもあるんで、最初はやりにくいなぁ、困ったと思ったよ(笑)。でも周りから聞いたら性格が悪いわけじゃない。でかい態度にカチッとくる者もおったけど、彼は素直なんでしょうね。思ったことをパッと口に出す。勝負の世界では遠慮しない面も必要なんでね」