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「生きるか死ぬかなんだよ。勝てよ!」と、格闘家に叱責され…「全部中途半端だった」おさる(53)が元祖“筋肉芸人”になるまで

おさる氏インタビュー #2

2022/01/02
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――愛。 

おさる 番組さんが「こうやってやったらよくなるよ」って言ってくれたら、かたちを変えてでも、うまく間を取ってでも、やっていくのが愛だと思うんですよね。僕はその「愛」をあんまり受け取らないできてしまった。

 昔、番組の企画でボクシング元世界チャンピオンの具志堅用高さんとミット打ちしてて、そしたら急に具志堅さんが「企画変更していいかなこれ」って言ったんですね。「おさるを世界戦に出すという企画でどうだ」って。 

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――ええ!? 

おさる そのミット打ちの企画自体、メインの人が別にいたから「いやいやいやいや、やめてください」って言って。ボクシングって命かけてずっとやるものだって思い込んでて、ボクシングを始めたらもうお笑いできないとも思ってましたし。でも今考えると、お笑いやりながら世界戦目指すって面白いですよね。

 マラソンでも似たようなことがあって、『24時間テレビ』で伴走もされているプロの方から「世界大会狙えるから、本格的に練習してみない?」とか。マラソンもやりだすと時間とられるなと思って……それも断ってしまった。 

 

――すごい。 

おさる 中途半端なんですよ。怖がりというか、どっぷりいけばいいじゃんって今なら思えるのに……。物怖じ癖がついてたんです。「いやいやいや、そんなそんな」っていうのがかっこいいとも思ってた。 

ムエタイ企画も断ろうと思っていたけど…

――誰かからの「愛」を受け取ると、責任も出てくる。私はライターなので、例えば編集さんから「こういう企画どうですか」と言っていただけることもあるんですけど、受け取るのが怖い時あります。自分がその期待に応えられるかわからない。失敗して傷つくのも怖い。 

おさる わかるな。『筋肉番付』でムエタイの話があったんですよ。当時『笑っていいとも!』のレギュラーだったんですけど、月曜日に『いいとも』が終わって、すぐにタイに行って、月火水木金土って向こうで練習して、それで日曜日に試合する。1週間の企画でムエタイを練習して向こうのプロの人と戦うという。僕はまた「いやいや、僕なんて」って言ってました。 

――断ったんですか? 

おさる 断わろうと思ってたんですけど、その時仲良かった人に言われたんです。「すごい制作費をかけた番組の会議で『こいつならいける。番組も成功する』っていって名前が挙がってるということは、お前にしかできないと思ってくれてるんだよ」って。

 それ聞いたらもうやけくそで、もうどうにでもなれって思って「やります」って言ったんですよ。それで向こう行ったら財布とパスポートと携帯取り上げられて、ずっとムエタイだけやらされて。 

――(笑)。 

おさる でもね、お笑いの気持ちはやっぱりどこかあって。当日どういうパンチくるか、顔にきたら痛いな、鼻折れたら嫌だな、だったらボディーにボーンときた時に、ウッていって負けて終わるのかなとかね。「どういう風に負けるんだろう俺」って思ってたんですよ。