治療まで3~6カ月待ちも
前立腺がんだけではありません。放射線の活躍する場はどんどん広がっています。子宮頸がん、頭頸部がん、肛門がんは、放射線治療で根治が可能です。食道がんや肺がんの人も、高齢で手術は勘弁という方には有力な選択肢となる。それだけでなく、転移性脳腫瘍、骨転移の痛みなどへの緩和ケアにも効果を発揮します。
現在、放射線治療ができる医療施設は、全国に700以上あると言われています。しかし、IMRTができる装置を備えている施設は、その半分ぐらいにすぎません。
私の病院でも、インターネットなどで調べて、IMRTを希望して来院される方が増えています。もっとも対象患者の多い前立腺がんは、治療開始まで3~6カ月待ち。その間にホルモン治療などを受けていただきますが、比較的進行の遅いがんとはいえ、お待たせする期間としては限界でしょう。それだけに、IMRTのできる施設・設備・人材を増やすのが急務です。
病院を選ぶ際に、まずはIMRTができる高性能の治療装置があるかどうかが、最初の判断基準となります。しかし、どんなに速いスーパーカーも、腕のあるドライバーがいなければ乗りこなせません。それと同じように、最新の治療装置があっても、専門家がいないと、質の高い放射線治療はできない。ですから治療を受ける際には、装置と人材がそろっているかを見極めて病院を選ぶことが重要です。
専門医がいない施設も多い
人材についてはまず、その病院に放射線治療の専門医がいるかどうかを尋ねてみてください。日本放射線腫瘍学会と日本医学放射線学会が共同認定する「放射線治療専門医」は、どの病院にもいるわけではありません。最近ようやく1000名を超えた(2015年9月現在、1071名)ところですから、放射線治療をやっている施設でも、実は専門医がいないことがあるのです。放射線治療の先進国・米国には10年前すでに約4000名の専門医がいたことを考え合わせると、日本はまだ遅れています。
さらに、「医学物理士」がいるかどうかも病院選びの際には重要です。彼らは医師が策定した治療計画を最適化し、品質を管理・保証する大事な役割を負っています。精度の高い放射線治療の実施には欠かせない存在です。
彼らの多くは大学で物理学、原子力工学などを専攻した人や元々診療放射線技師の人ですが、まだまだ数が足りない。現在、医学物理士認定機構の試験に合格した人は全国に861名(15年現在)。ただ、医学物理士は国家資格ではないため、病院で正式な役職として雇うのがむずかしく、大病院でもいないところがかなりあります。
あらゆるがんで放射線治療が役に立つ可能性があります。治療に迷うことがあれば、ぜひ放射線治療専門医にセカンドオピニオンをお尋ねください。
◆お知らせ
日本放射線腫瘍学会(http://www.jastro.or.jp/)が、放射線治療施設の装備とスタッフの両面からがん患者の皆さんが安心して高精度の放射線治療を受けられる病院を認定する、認定施設制度を創設することになりました。2016年度中に認定施設をホームページに掲載する予定です。他にも一般向けの放射線治療に関する情報も掲載する予定。ぜひとも学会ホームページをご覧ください。