年間孤独死3万人。孤立状態1000万人。日本はすさまじい勢いで孤立大国へと向かっている。それが、日本の孤独・孤立問題をテーマに長年取材と執筆を行なっている私の偽らざる本音だ。特に新型コロナウイルスの流行が始まってからは、これまで以上に人と人との繋がりが分断されてきている。そんな日本社会が抱えるリアルな「死」の現場を追った。(全2回の1回め/後編を読む)
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真夏の炎天下での孤独死
遺体の発見までの期間がこれまで以上に延びている――。長年付き合いのある特殊清掃業者がそう嘆くようになったのは、コロナ禍に入ってからだ。
真夏の炎天下、特殊清掃業者とともに孤独死が起きた都内のアパートを訪ねた。このアパートでは、年に1回は孤独死が起きるという。いわゆる風呂なしアパートで入居者の多くに身寄りがいない。そのため毎回、人が亡くなると清掃費用は大家持ちとなっている。
「この費用、いつもどうにかならないかと思うんですよ」
大家の男性はそう言ってため息をついた。
部屋で亡くなったのは、70代の男性だった。
「これは1か月どころじゃない。数か月は放置されたままになってるな…」
部屋に入るなり、特殊清掃業者はすぐにそう判断した。ワンルームの畳敷きの部屋は、異様な臭いが立ちこめていて、マスクの隙間からも容赦なく侵入してくる。特殊清掃業者は長年の経験から、畳に染みた体液や虫の状態からおおよその死亡時期を推定することができる。遺体は室内で少なくとも数か月放置されていた可能性があるということだった。畳の上には真っ黒になった布団があり、男性はそこで亡くなっていたらしい。体液をたっぷりと吸い込んでいた。
孤独死に多い「セルフネグレクト」
特殊清掃業者の作業は素早かった。
蠅の死骸や蠅の蛹などの虫たちをあっという間にかき集め、畳を上げる。大粒の汗が流れる額をぬぐいながら、懸命に清掃を続ける姿に、プロとしての矜持を感じる。こういった特殊清掃業者の数も、孤独死の増加と共にうなぎ上りで増えている。
あまりに遺体が長期間放置されすぎたこともあり、男性の死因は不明だった。しかし、夏の暑さが影響したのかもしれないと私は直感した。極端な不摂生や、医療の拒否やごみ屋敷化など自らの体を痛めつける行為のことをセルフネグレクトという。孤独死した人の8割がこのセルフネグレクトに陥っている。特に夏場はエアコンなどが使えないと、セルフネグレクトから熱中症による孤独死に直結しやすいのだ。
業者によると、通常なら少量でも写真やアルバム、趣味の品など、その人の身元を明らかにするものが見つかる。しかし今回の部屋は、いくら探しても人との繋がりを示すものは何もない。