近年、韓国発のエンターテインメントの世界的な活躍のニュースは毎日のように目に入ってきます。7人組ボーイズグループBTSの国連でのスピーチやパフォーマンス、Netflixドラマ『イカゲーム』や『愛の不時着』の世界的ヒット。
その韓国エンタメ産業の躍進は、実は韓国社会の変化と大きく結びついています。90年代後半、日本の大衆文化ファンの韓国の若者たちをルポし、現在もソウルに住み文春オンラインに韓国をめぐるニュースを執筆するノンフィクションライター・菅野朋子氏は、新著『韓国エンタメはなぜ世界で成功したのか』(文藝春秋)で、その韓国エンタメの世界席巻に至るあらましと、いまなお残る前時代的な闇を、様々なエピソードを交えながら、わかりやすく解説しています。ここでは同書から、韓国エンタメをめぐって起こった事件について抜粋、紹介します。(全2回の2回目/前編を読む)
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BTSの国連スピーチ
2021年7月21日、韓国の青瓦台(大統領府)は、国連に招かれた「BTS」を「未来世代と文化のための大統領特別使節」に任命した。
その2カ月後の9月20日、BTSは国連のイベント「SDG(持続可能な開発目標)モーメント」で、コロナ禍を生きる若者たちへのスピーチを行い、「未来への希望」を強く語りかけた。BTSの国連でのスピーチは2018年から数えてオンラインも含めて3回目。いずれも国連からの要請に応じたものだ。スピーチの様子やパフォーマンス、そして国連グローバルコミュニケーション局事務次長によるインタビューは国連の公式YouTubeチャンネルで公開され、パフォーマンスの再生回数は1日で1300万回を超える新記録を達成した。
韓国エンタメ産業が政治的にも国際的な影響力を持つように
BTSが国連のイベントに参加する一方、文在寅(ムンジェイン)大統領も訪米して国連総会に参加していた。総会で演説を行った後、文大統領は、米メディアでのインタビューや美術館探訪などをBTSと共に行動しており、韓国では、BTSの特別使節任命なども含めて、韓国政府がBTSを利用しているのではないかという批判が挙がった。
韓国エンタメ産業の存在がグローバル市場のなかで大きくなると同時に、政治的にも国際的な影響力を持つようになった。それはスターたちが、韓国国内での在り様と、国際関係との狭間で難しい対応を迫られることでもある。