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メール黎明期
当時、メールはまだ使いかたが定まっていない新しいメディアだった。手紙調の堅い形式をビジネスメールにも持ちこもうとする考えと、逆に書き手の顔が見えるような気軽な雰囲気をビジネスにも反映させようとする考えの両派があったらしい。
ネット黎明期だったこの時期、友人との気軽な連絡手段にメールを使うことは、時代の最先端をゆくクリエイティブな人たちの振る舞いだった。村上氏や枝川氏の書きぶりからは、当時のそんな雰囲気も伝わってくる(村上氏の著書には、当時ペルージャでプレーしていたサッカー元日本代表の中田英寿氏に「ひでへ。」と呼びかけて書いたメールの実例――。という、非常にレアな例文も収録されている)。
令和の現代に生きる私たちは、いまやメールを「堅苦しくてめんどくさい」もので、LINEなどのメッセンジャーソフトを「親しい人との会話のノリで気楽に使える」ものだと考えている。だが、20年前の時点では、「堅苦しくてめんどくさい」手紙と比べて、メールこそが「気楽に使える」連絡手段だと考える人たちがいたのである。
ちなみに「お世話になっております」の類似表現について、村上氏はこう書いている(同書41ページ)。
「いつもお世話になっています」
上記のあいさつ文もよく見かけるが、わたしは使わない。
肉筆の手紙であれば、感謝の気持ちとともに温かみが感じられるようなセンテンスも、PCのモニター画面だと、情緒が消えて情報だけになる。