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 興味深いのは、富山県の地元紙で現在の北日本新聞の前身の1つ、北陸タイムス。ベタ(1段)記事だが、見出しは「竈(かまど)の煙上がらぬは 一村全滅噂(うわ)さ」。本文はこうだ――。

「婦負郡大長谷村をさる約2里(約8キロ)の奥山に飛騨吉城郡領の万波と称する5、60戸の一部落あるか。目下積雪3丈(約9メートル)余ある由にて、交通全く途絶しおれる所、突然数日前より同部落より立ち上る竈煙が絶えたるをもって、大長谷方面の者は思いおれる際、先(の)該部落が大頽雪のために埋没されて全滅せりとのうわさ立ち、大騒ぎになれるより、昨日、(県)警察部にては八尾署にその調査方を命じたり」。冷静な受け止め方といっていいだろう。

「うわさ」と報じた北陸タイムス

 しかし翌2月15日付でも読売が「深雪の底に一村全滅 飛騨國萬波 三百名餓死」の見出しで他紙と同様の内容。「一月中、降り積もりたる降雪のため交通全く遮断され、同月下旬までには同部落住民約300名全部餓死したること、このほどようやく判明したり」と断定している。

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 いくつかの地方紙も同内容の記事を掲載。さらに英字紙Japan Timesも同日付1面で「VILLAGE AND 300 SOULS WIPED OUT」(村と300の生命が全滅)の見出しで記事を載せた。当時の国際通信社=同盟通信(時事、共同の前身)の前身の1つ=が配信したニュースだった。

うわさは飲食店から生まれた

 それに対して、同じ日付の時事新報は在京紙で初めて事実関係に疑問を呈した。

 飛騨の一部落 全滅は噂 

 飛騨、越中の国境なる岐阜県吉城郡坂下村字萬波は、積雪のため一部落全滅せりとの取り沙汰、富山県下にもっぱらなるより、岐阜県へ照会して取り調べの結果、萬波はなんら異状なきも、富山県婦負郡大長谷村にて、積雪のため2戸倒壊して火災を起こし、6名焼死せるを発見せりと(岐阜14日電報)。

 確かに大長谷村では1月8日朝、雪崩と火災で民家2軒が倒壊、焼失。2家族計9人が死亡していた。同じ日付の大毎は続報として「報道の出所薄弱 實(実)否未だ不明」として金沢からの来電を掲載。富山県警察部が岐阜県に問い合わせたが、まだ回答がないと書いた。この記事で気になるのは次の記述。「風説の出所は(富山県)婦負郡仁歩村(現富山市)、田中飲食店にてこのうわさをなしおりしため、時節柄たちまち流布されしものにて、目下のところ実否確かならず」。ようやく実体が見えてきたようだ。そして、北陸タイムスは2月16日付で次のように虚報と断定した。