やっぱり偉くなったり、社会的地位が高くなったら、自分をきれいにしないと。フランスに、高貴な人ほど自分に厳しいという意味のノブレス・オブリージュという言葉がありますよね。おふくろはそんな言葉を知っていたわけがないけど、「威張ってはいけないんだよ」「悪いことは絶対見つかるんだよ」というのはわかっていたんですね。
それから「物をもらって怒る人はいない」は、巨泉さんや担任の先生に対して本人が実践していましたから(笑)。「人は欲しい時に物をくれない」は、他人は聖人君子じゃないよと。人に物を差し上げるというのは、見返りを多少求めているんだと。物をくれないのは、見返りが期待できないんだよって。そんな人間の嫌な面も言って聞かせてくれました。
弟・たけしは「俺は姉ちゃんに孝行するんだ」と
ーー北野家は、どんな一家だったと思いますか?
北野 ああいった時代の背景もあるし、下町ということもあるんですけど。それぞれが真剣に生きてきたということでしょうかね。ただ、おふくろは気位が高くて。とにかく教育をつけて、貧乏から抜け出るという一心で、あらゆることをやってきました。ことあるごとに「北野の人間は優秀だ」って言っていたんですけど、これなんて一種の洗脳、宗教ですよ(笑)。
たしかに、弟は優秀だと思います。長男も。弟には昔から「上から順に、長男、姉ちゃん、俺。一番、頭の悪いのは、真ん中のあんちゃんだよ」って言われてました(笑)。でも、最近は「でも、一番努力したのは真ん中のあんちゃんだな」って(笑)。そのへんは、彼も年を取ってきて、才能だけじゃなくて、努力も必要だよと思うようになったんじゃないかな。
ああいう親に育てられて、結果的には僕はこれでありがたかったと思います。あと、特に私の場合は、弟が世に出たことでチャンスももらったということもですね。
ーー現在の北野家は、どのような感じでしょうか。
北野 年に2、3回は会ってますけど。仕事がありますから、頻繁にとはいかないですね。
姉はご主人を亡くしてからは、弟の家のすぐ近所に住んでます。弟は「おふくろには親孝行できなかったから、俺は姉ちゃんに孝行するんだ」って言ってますね。
おふくろが生きていた頃は、年に2、3回しか会わないなんて、仲が悪いんじゃないかっておふくろは心配してましたけど。そんなことはないし、いまもお互いに足を引っ張らないように仲良くやってます。
時々、私も弟と会って食事をしたりしますしね。ただ、顔を合わせるたびに、弟にはご馳走になってますけど。とても私が払えるような、お店じゃないのでね(笑)。
撮影=石川啓次/文藝春秋